クラムチャウダーのまどろみ

@Simizu_k2

クラムチャウダーのまどろみ



…さい



「起きてください、王子!」


!!!おは…よう…っ


頭がズキンズキンといたい

この人は誰だ?

「今日から新学期と言うのに、そんなに寝てしまってはいけないではありませんか」

新学期…いま何時?

「1月7日、6時32分、2分の寝坊です。」

壁には服がかけられている、見覚えのあるその服は俺に起こっていることから目を背けられないようにした。

俺は高校生の、17歳の俺に戻っていた。

(夢か?なんかわからないけど父さんに怒られるのも面倒だし学校行くか。)

とりあえず制服を着てとりあえず朝食をとる。とりあえず学校へ行き始業式、授業をこなす。

(…なるほど、この頃の俺、偉いぞ。宿題も何もかもやってあるじゃないか。…なんか、懐かしいな。)

目の前にはじゃれ合う生徒、なつかしい机、黒板。この騒々しい空気に急かされ今更そんなことを思う。

(これ、どうするんだよ…このまましばらく過ごすしかないのかね)

「かーさっ!!どうしたの、そんな顔して、らしくないぞ?」

「そうだぞ、暈は王子らしくないからな」

…そうかな?

(…誰だっけ)

「そうだよ、圭一もうなずいるわけだしさ」

「そうだな、自覚ないことに驚きだ」

はは、疲れてるのかもな

「そうだ、そろそろ冬のあの時期だな、準備は大丈夫なの」

冬の…?

「ほらあの、夜明けに見る」

あ、あぁ!あれね!!


この国では冬になり一番寒い日にちになると空気が凍る細氷、いわゆるダイヤモンドダストが発生する。

それを明け方の朝日と見るきれいな祭りがある。それは冬の年はじめのイベントとして毎年大きく行われていた。

その時期が着々と近づいているようだった。

ところで、今年の祭りはいつか覚えてる?

「うーん、毎年そろそろの時期っていうのはわかるんだけど」

「確か一月第三日曜日だから2週間くらいあとじゃなかった?」

あたり、流石天才サイカは違うね

「からかわないで」

そう、圭一とサイカ、高校時代いつもつるんでいた二人だ。二人は今どうしているんだろうか。



「じゃあね、今日もかわいかったよ!暈つぁん!」

ありがとう!やっぱり俺っていつでもかわいいから♥

「ふざけるな♥」

振り返ると大きな車が止まっていた。運転席には王家の紋の入ったネクタイをしている男が乗っている。

げぇ、迎えはいらないって…俺は大丈夫だよ

「いえ、ですが…」

ですがじゃ…な、いん…

そうだ、思い出した。17歳の祭りの前の事を

わかった。乗る。

「珍しいですね、いつもなら意地でも乗らないのに」

気分が変わったの!いいから!

夢ならさっさと覚めねぇかなぁ…

「夢?これは夢なんかじゃありませんよ、貴方の意識のなかです、夢とは違うのですよ。そもそも貴方が作り出した世界でしょう」

なにいって…っ、頭がっ…またかよ

お前、誰だよ…誰だ…

「誰とは失礼ね」

…!?

「私はあなたの母です…ちょっと、青色真っ青よ?水飲む?お水をちょうだい」

俺さっきまで何してた?

「なにって、今日はブランチをとって剣術のお稽古、お料理、そしていま、あなたの料理を食べてる途中でしょ?」

確かに目の前には料理がおいてあった。今となっては暈の得意料理となったクラムチャウダーだ。少し焦がしたのか茶色の斑点の浮かぶそれは暈の心を写しているかのようだった。

一口すすり、味を確かめる。なにかが足りない。玉ねぎの炒め具合?塩気?甘味が足りない…。

甘味が足りない…これじゃない、これじゃ駄目だ…。母さんは何が足りないと思う。

「そうねぇ、あなたの覚悟かしら、王子としてのカクゴ、自分でもうわかっているんでしょう?」

覚悟?王子としての…?俺はまだ王子を被れていないのか?

「それは自分で考えなさい。戻ればわかるはずよ。」

戻ればわかるって、戻りかたを知ってる…?

「そのときが来れば」

…ちょっと…部屋に戻る

「あら?寝ちゃダメよ、すぐに予定があるんだから。」

予定?

「なに寝ぼけてるの、今日はお祭りの前々日でしょ?皆と一緒に準備にいくっていってたじゃない。」

そうかも、ありがとう。いってきます。

「気を付けるのよ」

わかってるって



「暈をまた外に出したのか」

「いいじゃない、暈も高校生なのよ。少しくらい遊ばせたって。」

「それにしても最近はひどすぎるだろ。王子としての自覚がないんじゃないか?お前は甘すぎるんだ。」

「そうかしら、あなたも昔はやんちゃしてたのよ?」

「だからだよ、私のようにはなってほしくない、苦労するのは…



何時だってそうだった。父さんは俺のやることに対して口を出す。母さんは肯定する。王子としての自覚がない、自分の思う通りやればいい。俺はどうすればよかったんだ。やりたいようにやれば父が怒り父の言うことを聞けば母がヒステリックを起こす。自分のやりたいように生きるには世界が狭すぎた。

またここか。

流れ着く場所はいつも同じ廃れた展望台、ここはまだ椅子があったんだ… 懐かしい。

……そろそろか。俺は祭りの前々日、友達と合うことなくその年の祭りにも参加しなかった。

パキッ

来たね、どうして君は僕を襲ったんだ、サイカ。

「なんだ、ばれてたの。何故ってまた面白い…。私はずっと油断させるためにあなたに近づいていたのよ、それに気づかない貴方が悪い。」

うん、君は悪くない。悪くないよ。

「敵を甘やかすな、そういう危機感のないところが嫌いだった。毎日吐き気がしたわ。」

うん。ごめんね。

「調子狂わすそのテンポも、全部、全部全部全部嫌いだった。…でも貴方が今ここでわたしと一緒におとなしくついてきてくれるなら貴方を好きになれる。」

何故?

「質問ばっかりの人って嫌い。自分の頭で考えずにすぐ人に聞く、それで答えが返ってくるって知ってるから。バカなのよ。すぐ質問する人って。」

それは、ごめん。でもわからないんだ。サイカが俺になんでそんなに嫌悪を抱いてるのか。それがわからなきゃもとの世界に戻れない。

「そんなの、自分で考えれば…わかるじゃない。ここで考えて私が答えないなら答えなんてないわよ。貴方の世界だもの。全部貴方の記憶をもとにできた世界だから。 」

そっか、ありがとう。じゃあ、いいよ、ここの階段から俺を突き落とすつもりだったんだろ?いいよ、落として。結局自分の世界のなかなんだからあがいたってしょうがないだろ?

「…」

決心して。あのときは君が決心をして俺を突き落とした。その結果全治3ヶ月だよ、参ったなぁ。それでも俺は生きてる。元気だよ、君は犯罪者じゃない。すべては俺の事故だったんだ。

「…なんで、そんなことしたのよ。あんたのせいで、わたしが…どんな風になったのか知ってるでしょ?」

うん。自主退学していったね。噂で包帯やガーゼだらけの君を見たって言うことを聞いたよ。でも君にはこの国で死んでほしくなかった。

「…そう、もう少し頑張ってみるわ。貴方の記憶のなかではそこで私は止まっているけれど、そこまで精一杯生きてやる。だから貴方を突き落とすわ。」

俺も、俺も抗いたい。父にも母にも。ありがとう、サイカ。



「なぜ、一人で出歩いたりした。」

俺は自分のやりたいことをしたかった

「またそれか、毎回言ってるじゃないか。そういうことを言うのはやめろと。」

俺が何をしようが王さんには関係ない

「私はお前のことを思って」

何回も聞いた。でも父さんのやることは俺のためになるとは思ってない。

「…なんだ、誰も彼も…。もういい。閉じ込めておけ。」

ほら、結局こうなるんだ。

でも誰も悪くない。いまになってわかるんだ。自分の正しいと思うことをやった結果、すれ違い摩擦がおきた。俺はもう何が正しいのかがわからないけど、自分の気持ちを信じたい。だから、父の正義を肯定し、自分は抗いたい。サイカと約束もしたから。

王子としての覚悟、出来てるかな…わからないけど、彼女に認められたら俺はそれでいいかな?

そろそろ戻りたいよ、戻って大切な人の顔をみたい。見てこういうんだ。「おはよう、会いたかった」って。それがいまの俺の気持ちだから。




「…さ、かさっ!!」

いっ…いたた…えっ、頭いたい…。

「こけて頭をうったんだよ、それで気絶するから…」

彼女の瞳からこぼれ落ちる煌めきをひろう

泣いてくれたんだ。

「お医者さん呼んでくるね」

…しばらく、一緒にいて。俺はもう大丈夫だから。


おはよう、君に会いたかった。

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