夕立
季節はもう秋だけれど、あれは夏休みの前のことだった。
いつも同じバスに乗っている多分大学生の彼を家の近くの公園で見かけた。こんなところにいるなんて珍しいなと思って、こっそり近づいてみた。
彼の手元には、缶チューハイがあった。もう夕方5時を知らせる音楽は鳴り止んでいて、子どもたちの姿はそこにはなかった。
缶チューハイを乱暴に手にとって、ぐいっと飲み干し、片手を額にあて、何か一言呟いたようにみえた。
いつもと違う少し怖いような顔がちらりと見えて、私はそこにいてはいけない気がした。そんなときに、雨が降り出したのだ。
みるみるうちに彼の頬は濡れて、居た堪れない気持ちと手を差し出したい気持ちがせめぎあう。
声をかけずに、ハンカチだけを彼の膝に置き、私は家まで走った。
ときめき 月頼かんな @tsukuyorikanna
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