3.December
冬。街はキラキラと色付き、賑やかなベルの灯りや音色が重なる12月はじめ。
世のキッズたちはプレゼントのお願いをあれやこれやと探索しては、冬色の真っ赤になった頬を暖炉の火でこんがりと暖める。。そんな季節がやって来た。
ただただ僕はぼんやりと秋を過ごしてきた。書斎にはほぼ毎日足を運び、星や星座の種類を調べたり流星群の予定を星座早見盤や机に積まれた天体新聞を眺めて追いかけていた。スケッチブックは星座の模様で埋まり。青いクレヨンも半分の大きさになった。
彼女はあの日以来顔を表す事は無かった。冬服姿の彼女をまだ一度も見かけていない。いや最初からそんな彼女の存在は無く、僕だけがただぼんやりと観ていたほんの僅かな蜃気楼の様なものだったのかもと思う様にさえなっていた。
それ以外の私生活はあっけない程平和に時が流れ、マフラーも手袋もその有難さを感じる時期に入ろうとしていた。
卒業を来年に控えた僕は、その前に立ち憚る試練のために睡眠時間を削り、眠りの代償としてノートに文字をひたすら書き連ねる作業を始めた。
そんな12月の放課後、僕の街の駅前広場は年末の飾り付けが商店街の人々や駅員達によって着々と進んでいた。下校の途中に通りかかった僕は
「…今年中に雪はちらついたりするのかな。。」とぼんやり考えながらその作業を見つめていた。
未だにどんどん育っているんじゃないか?と思わせる様な隆々とした枝の樅の木。それを囲む様にエナメルの様な光沢のリボンがあらゆる所に結びつけられている。それに負けぬ量の大小の星たちが枝の隅々に点されて、次第に聖歌や天使の似合う景色になり始めた。
ひらりひらりと僕が気付かぬ間に降り始めた大粒の雪。それが綺麗なタイミングで空中を埋め始めた頃、僕は間違い探しの答え合わせのような違和感を感じ、その直後はっと息を飲みこんだ。
僕の学校の制服を着た女子がひとり駅員達に紛れて飾り付けを手伝っていた。
慣れない手つきで取り付けている女生徒の仕草を辿って行ったら。あの秋の日、青い空の下で見失った彼女の面影があった。思わず僕は声を上げていた。次第に雪は冬の白い結晶を包み込み勢いを増していった。
彼女は遠い場所から僕に気がついたらしく、手を休めこちらを振り向いて側まで歩いて来た。
「もう大変だったのよ? 外も滅多に歩かせてくれないんだもの。。流星群を追いかける時間なんて本当に見つかからないわ。。それにこんな雪が降っちゃって。運がないったら。。もうね。。」
そんな調子で彼女はいつもの憮然とした瞳で僕に話しかけた。
僕は言葉にも声にも出来ないで、彼女のそんな様をぼーっと見つめるだけだった。
そのとき。雪を横殴りにふるわせた冬の微風がツリーに衝突し、飾り付けられた星の造形がパラパラと僕たちの周りに落ちて来た。流れ落ちて来た。そう。。冷静に戻った僕がそれを感じた様に伝えるのなら…
天空から見下ろした一番低い天の川でそよそよと流れる流星達の様に…そしてその流星たちは彼女の頭上にも降り積もって来た。
暫しの間、突然冬空を襲ったとハリボテの流星を見ていた彼女は、クスリと笑みを浮かべて。
「あら、結構雪が積もってきちゃったみたいね。」
とだけ呟いて、スカートの上にも積もり始めた雪の結晶を振り払う様に、彼女は勢いよくくるりとターンをした。
天川の様にちりばめられた星座達の結晶は、夜空が辺りを包むみたいに広がった制服のスカートから
一瞬のうちに緩い流線型の弧を描き舞い降りて。それはまるで数多の流れ星が零れた様に僕の目にはみえた。
目の前にそびえ立つ大きなクリスマスツリーには、リボンやきらきら輝く純白の雪に紛れて、どう見ても冬と合致しない風情を醸し出す一片の短冊がそおっと隠す様にぶら下がってあった。
もう一度、くるんって振り返りスタスタと歩き出す彼女の背中を、僕は子どもがはしゃいで息の上がってしまった様な声で「待ってくれよおお。。」と叫びながら追いかけて行った。
僅かに溶けた雪で滲みかけた彼女の小さな文字が、短冊と一緒にサンタクロースを待っていたという事実は、うーん。。もはや皆に伝える必要も無くなったのかな。。と思い、最後のエンディングをどう締めようかとうんうん悩み続ける筆者であった。
「地球に星が毎日降って来ます様に。頼んだわね?私の研究員よ。乙姫」
presented by
mothermade antique x’letter of cake
(2018-0123.26)
Twinkle Snow Tiny Stars @mimoriotone
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