2.September

 その次彼女を見たのは夏の暑さが引いた9月の末。彼女は夏の制服姿だった。今まで殆ど見かけなかったのだけど、彼女は自分と同じ学校の生徒だった。校庭の隅にある鉄棒の前で、宇宙の天上の様にだんだんと高くなる秋の夕焼けを睨みつけながら。。

「なんで彗星も流れ星も落ちてこないのよ!! 失礼しちゃうわ! 流星群の予定は私がちゃんと決めてあげたのに!」

 と全く理解不能な言語に見て取れる程の言霊を罵声の如く僕に浴びせて来た。

「ええ。。ええ。。と 天体の都合というか。。 流星は流星のスケジュールというのがあるんだと思うんだよ。。 何座の流星群の事を言ってるのか判らないけど。。明日までに調べてくるから。同じ時間と場所で待ってって?」

 と、とっさの切り返しをしてそそくさと校庭を出てしまった。

「そう? 貴方は有能だと信じてるわ。まあったく梅雨の時は頼りにならなかったけれど。健闘を祈ってるわ。」

 という彼女の言葉が聞こえたのか否か、自分が走り去ったのはそれも分からないくらいのタイミングだった。

 帰り道。正気を取り戻した僕はちょっと怖さを感じていた。でもその恐怖の反面、再び彼女と遭遇して何かぼんやりとしたあやふやな役割が芽生えた様な気もしてた。それは彼女の怒りを鎮めたいと言う事とは少しちがう何か。。。そしてひとつだけ確信した事がある。

(僕は彼女に少なからず興味を持っている)と。

 確かに彼女の口調や態度は恐怖そのものだ。モンスターがあんぎゃああと叫ぶそれそのものだ。

 でも自分に向けられた彼女の不満案件達は、自分がなんとか頑張れば解決出来なくもない。もしかしたら頑張ってみれば彼女の望みを叶えられるのでは? と思わせる様な予感に満ちた心地がするのだった。

 夕食も風呂も課題も最速で済ませた僕は父の書斎に忍び込み、星や宇宙のや星座の本を引っ張り出して調べに調べた。彼女にいつも流れ星を見せてあげたい。流星群を見つけて彼女を星の光で包んであげたい。そんな過ぎた願いがその晩の自分を動かしていたのかもしれない。

 ふと書斎の机を見ると、然程の小ささではない星座早見盤があった。父は秋の星座が観たかったのであろう。明日の日付に目盛りは調整されていた。ふと何気無しに盤の夜空に目を移すと。深夜10時の位置に何やら手書きのようなヨレヨレの白い太い線で「これ→すいせい」その右隣には「でもってこれが→苺タルトりゅうせいぐん!」とあった。僕は思わずその早見盤を僕の部屋にあった画用紙のようなスケッチブックと青のクレヨンで細かく描き移した。

 そして夜明けの星座は空の彼方に消え。朝が僕らの街に訪れた。

 一睡もしなかった僕は放課後。スケッチブックを持って鉄棒で彼女を待った。どう説明したらいいのか分からないけれど。これを見せたら彼女は穏やかな表情を僕に向けてくれる。そう信じていた。なんだか分からないけれど、眠くて眠くて仕方が無かったけれど。ドキドキとワクワクが同時にやって来て。

 こんな気持になったのは生まれて初めてなのではないのかとずっと思っていた。

 …でも彼女は姿を現さなかった。

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