第2章 将来の夢
11点目 夢の始まり
どれくらい寝たのだろうか。
たまにとてつもなく長い時間寝ていたような感覚で目覚めの悪い朝を迎えることがあったが、比にならないくらい随分寝ているような感じである。
重い瞼が少しずつ軽くなり私は目覚めた。
「・・・。」
多分見たことのない時計、見覚えのない勉強机。
おそらく見たことのないベッド、見覚えのない部屋、、
「りょうちゃん!遅刻するよ!早く出てきんさい!」
お婆さんの声であった。聞き覚えのない、、いや、妙に懐かしいお婆さんの声。
私は居間に出向く。
質素ながら温もりを感じざるを得ないほどの懐かしい朝食が丁寧に並べられていた。必要以上によく噛んで、味噌汁をすする音も大きくなる。
〈何が起きているのか?〉そんなことがどうでもよくなるくらい心地が良かった。何より〈これは夢だ〉と思う。夢で起こることは現実で起こり得ないことだとしても意外と気づかないものであるし、起きている自覚はあってもきっと何かの間違いなんだろうと、そう自分に信じ込ませる他なかった。
「いってきます!」
私は外へ駆け出した。
何故だろうか。見覚えのないはずの土地を堂々と歩いていけるこの感覚は。道などわからないはずなのに足が進むこの感覚は。
私が向かった先は小学校であった。自分の意識はハッキリしている。その中で何かに操られているように動く身体を不思議と許容していた。
〈私は何者であっただろうか〉小学校に出向き上履きに履き替えた時、ようやく疑問を頭の中で創り上げることができた。
しかし考えると頭が痛かった。やめよう。私は考えることを放棄してとある教室に入っていく。
2年C組。教室の札にはそう書かれている。そうか。〈私は小学2年生なのか〉と理解する。
「りょう!昼休みサッカーしようぜ!」
活発そうな男の子が話しかけてくる。
「うん。いいよ!」
サッカーは好きである。それにしても明るい雰囲気の教室であった。みんなが笑っていて楽しそうであった。好きである。私はこの空間が好きであった。
授業を受ける。内容など全く入ってこなかった。でもこの空間と響く教師の声が懐かしい気がした。
昼休みサッカーをする。勝利など目的ではなかった。この身体から流れる汗と太陽が心地よかった。
また授業を受ける。サッカーの疲れなどほとんど感じない。私はとても幸福であった。授業の最後、教師が何か言っていた。懐かしい感じがした。懐かしい、聞き覚えのあるような感じが。
「はい、授業はここまで!明日はいよいよ作文発表会です!」
オウンゴール 田名崎剣之助 @kennosuke-tanazaki
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