『振り返ればあの時ヤれたかも』の予想図


 カクヨムで開催されるスニーカー文庫タイトル斬り!!コンテスト。今回は、このタイトル斬りの一つの応募作の条件「振り返ればあの時ヤれたかも」について、考察したいと思います。


1.タイトル以外の要素


・十代の読者を対象としたタイムリープものエンタメ作品

・50000字以上の中編作品であること(未完の作品は選考対象外)


 説明文どおり、編集者はタイムリープ要素のあるエンタメものを書くように指定しています。

 タイトルにもある「あの時」や「かも」にもタイムリープ的な匂いが隠されており、タイムリープもの以外のものはダメというのを主張しています。

 

2.タイムリープものとは


 『タイムリープもの』というのはある時点からある時まで時間が繰り返される作品のことを言います。

 タイムリープをテーマとした作品は色々あり、タイムリープの能力を持った主人公が問題を解決するためにそれを駆使する“能力”パターン。もしくはタイムリープの中に入った主人公がそこから抜け出すために、様々な行動を取るという“脱出”パターンがあります。前者はオール・ユー・ニード・イズ・キル、後者は涼宮ハルヒの憂鬱のエンドレスエイトが挙げられます。

 

3.タイトル指定とタイムリープ


 「振り返ればあの時ヤれたかも」というタイトル。このタイトルの中に含まれる「振り返れば」「あの時」「かも」は主人公にとって何らかの後悔があるように思われます。


 「振り返る」というのは、過去を振り返るという意味。

 「あの時」というある時の一点を見つめる。

 「かも」という今はできなかったが、あの時、あれをしとけばできたという後悔の念が存在している。

 

 となると、主人公は「あの時」という人生のターニングポイントとも言える点で何らかの過ちを起こし、現段階において、それがヤれなかった、できなかった、というそんなイメージが湧きます。

 そして、タイムリープという編集者の指定にあることから、後悔している現段階の自分からあの時へ戻ることでそれを解決するというのが想像できます。同時に、タイムリープという能力を使ったことで、今後悔しているというパターンも存在します。

 また、「ヤれた」という言葉からいかがわしいことを考えてしまいますが、この「ヤれた」を<できる・できなかった>という<可能・不可能>へと転換させた方が作品に広がりが持てると思います。

 あと、「ヤれた」は「殺れた」と、当て字に変える方法もあります。しかし、このタイトルで執筆すると、完全犯罪を目論む主人公がタイムリープ能力でヒトを殺すというストイックな物語になりそうですね……。


4.タイムリープの特徴


 タイムリープものが名作と言われているのは、精神的欠損感のある自分が、過去において問題を発見し、それを解決できたことで、精神的充足を持つことができる点にあると思います。

 すなわち、過去において知識や経験が不足していて「できなかった」ことが、今時間が経て成長した自分なら解決「できる」ことで、欠損していた自分の現在を変えることができる要素にあると思われます。

 となると、タイムリープに必要なファクター、プロット要素は、主人公の欠損要素が過去に戻ることで解決し、欠損が充足されるというものが必要となるはずです。


 なお、これを満たすのは能力パターン。脱出パターンはタイムリープが悪者となるため、タイムリープを克服する精神的成長やそれを邪魔する障害を描く必要があります。

 

5.“脱出”パターンのタイムリーププロット例


 今までの要素から“脱出”パターンのストーリーであれば、誰かがタイムリープの中で居残って、他のメンバーは脱出したというプロットが作れます。

 簡単にプロットを考えると、一週間が繰り返す世界があり、主人公たちがその世界に入ってしまい、その世界が脱出するためには誰かが犠牲にある。そして主人公はそこから脱出することができたが、そのヒトは脱出することができず、あのとき、オレが居残れば……、というストーリーが思い浮かべることができます。

 ところが、このストーリーはあまりにもタイトルどおりであるために、予想を裏切るストーリーにするにはどんでん返し要素が必要となります。実は、脱出できたのは主人公以外だった、とかなんかが使えます。

 ただ、こういう世界を作るにはかなり強力な設定ないといけませんし、脱出方法も納得できるものでないといけません。

 そして、脱出パターンには主人公の精神的欠損の充足よりも、どうやって脱出するのかという部分に、読者が視点を置きます。タイムリープの売りとなる部分を捨てて調理する可能性がありますので、脱出パターンで執筆する場合、それを覚悟してください。


6.”能力”パターンのタイムリーププロット例


 能力パターンだと過去のある時点で現在の主人公の精神的欠損を作り出したトラウマを考える必要があります。そして、そのトラウマを解決する特効薬と言える解決方法も必要となります。また、過去を解決したことで、未来がどう変わるのかという変化要素も考えないといけません。

 簡単なプロットを考えると、あの時あのコに告ったら現在恋愛いない歴=年齢じゃなかったとか、あの時一緒に帰っていたら交通事故に遇わなかった、とか様々なトラウマ設定があります。まあ、ここらへんは手垢が付き過ぎていますが。

 それを解決するためのタイムリープをすると、あのとき告ったカノジョは未来だと他界していてオレが告白しなかったらよかった、という変化要素を付けるといい作品になります。


 マッピングすると、


「トラウマに苦しむ今の主人公」→「タイムリープ能力獲得」→「過去へ」→「過去を解決」→「未来が変化」→「この現実を受け入れるか」→「受け入れない」→「また過去へ」


 という感じでしょうか。


 ここで大事なのはこの作品は中編であり、完結する必要があること。つまり、満足する答えを探すために、過去ばかり戻るというオチは使えないということです。ちゃんとしたケリをつけることがタイムリープの条件。しかし、これが予想を裏切るストーリーを作ることができる設定の一つになると思います。

 

7 タイムリープと予想を裏切るストーリー


 あと、今回の執筆に指定されているのはタイトル指定、タイムリープ以外に、予想を裏切るストーリーが含まれています。

 予想を裏切るためには、タイムリープという前提を従ってストーリーで裏切るか、タイムリープ設定そのものを覆す必要が出てきます。

 ただ、タイムリープ設定を覆すだけの設定がこの世にあるか? というと、夢オチか、この世界はある一定期間ループする孤立したサーバーにある電脳世界であったとか、設定のそのもの上書きというのがありますが、それをすると、タイムリープものの売りといえる、精神的欠損の充足感が失われる危険性があります。というか、失われます。


 編集者のことばにもあるように縦軸を考えないとまとまらないということから、縦軸、すなわち、チャートやマッピングをしなければ、まともなタイムリープものが書けないということなります。

 勢いでタイムリープものを書いたが、矛盾がでてきて処理できず、頓挫してしまったなんて話はよくあることで、タイムリープはまさにそれ。うまく軸を揃えないとストーリーが崩れてしまいます。


 8.まとめ


 「振り返ればあの時ヤれたかも」の考察について、まとめます。


 ・ タイトルのニュアンスから、主人公には精神的欠損要素、後悔の念がある。

 ・ タイムリープものには能力パターンと脱出パターンの二つある。

 ・ 脱出パターンはタイムリープをどうやって抜け出すかというが中心となり、主人公はタイムリープの脱出を通じて精神的成長を描く。

 ・ 能力パターンは精神的欠損感を持つ主人公がタイムリープによって過去へ戻り、無事未来へ戻ったときに、精神的充足感を持たす。

 ・ タイムリープものは縦軸が大事。チャートやマッピングを用意してから書く。

 ・ 予想裏切るストーリー。


 こんなところになるでしょうか。

 中編小説はだいたい5~9万文字以内ですから大切なものだけを書けば、小説が完成すると思います。

 

 それでは、いいタイムリープ作品を書いてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちょっとした創作論 羽根守 @haneguardian

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ