エピローグ


 あれから数か月経った夏の終わり。

 原色の青色の空の下で、マイエンは浄水装置の点検にやって来た。彼女の周りには星の家の子供達がきゃいきゃいと跳ねて回っている。マイエンの弟子となったリリを見て、他の子供達もマイエンに教えて欲しいと集まった結果である。

 流石に人数が増えてしまうと場所も足りず、オルヴァルに相談した所、いっそ学校のような場所を作ったらどうかと提案された。現在、準備中である。

 それまでの間、オルヴァルと交代で、子供達の面倒を見る事になったのだ。


「マイエン先生、俺、あっち見てくる!」

「転ぶなよ」

「はーい!」


 駆けて行くイギー達を見ていると、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと少しやつれた顔のカッツェルが立っていた。


「こんにちは、今日も良い天気ですね」


 あの後、カッツェルは揺らぎの星の協力者達に「制御キーがあの無数のテトラの星の一つに埋め込まれていた為、見つけることが出来ない」と話した。

 その代わり別の方法で中央への復讐を果たそうと伝えたのだ。

 計画に不安を感じていたり、何か思う事があった者達の納得は得られたようだが、当然ミストのようにそれで納得しない者達も大勢いた。

 その者達への説得や、後処理をしているらしく、最近はほとんど眠っていないらしい。


 そのミストだが、自警団員の一部を連れて姿を消した。 

 旅芸人の一座についても隙をついて――自警団員がほぼ全員動けない、動かない状態だったという事もあるが――逃げられてしまった。

 だが、ピエロの青年だけは中央に出頭したとマイエンは聞いた。

 ベリー商会もその関係で中央から事情聴取があったらしい。どうなったのかは聞いていないが、ここにカッツェルがいる事から見ても、何かうまくやっているのだろう。


 ただ、吉報もある。

 一人の発明家の命を奪った者が辺境に隠れていたという事が報道された事により、中央が重い腰を上げ、辺境への警備に力を入れると発表したのだ。

 本来ならばそれは初めから中央がやらなければならない事ではあるのだが。

 新聞を読みながら、オルヴァルがフンと鼻を鳴らしていたのをマイエンは思い出した。


「そう言えば新作の紅茶を飲んだよ。最初のと似た風味で美味い」

「それは良かった。……あの紅茶の茶葉はヴァイツェンで採れたものなんですよ」


 カッツェルは微笑むと、その場に腰を下ろした。

 さらさらと柔らかい風が髪を撫でる。

 カッツェルは息を吐いた後、不意に、思い出したようにマイエンを見た。


「そう言えばひとつ聞きたかったたのですが。マイエンさんはどうしてそんな口調なんですか?」

「口調?」


 カッツェルの言葉に、マイエンは言い難そうに眉間に皺を寄せた。

 少しの間の後、視線を逸らし、マイエンは小声で答える。


「…………子供の頃、一緒に遊びたかった奴がいるんだよ。ロボットは男の浪漫だとか言ったもんだから、その、口調だけでもと」


 その様子にカッツェルは思わず噴き出した。

 そうして堪えきれないように笑い出す。

 カッツェルの笑い声に気が付いたイギー達が、何か楽しい事でもあったのかと、集まって来た。

 笑い転げるカッツェルと、そのカッツェルにどうしたのと聞く子供達を見ながら、マイエンはへそを曲げたように顔をしかめ、


「コノヤロウ」


 やがて諦めたように顔を緩めると、ふっと笑って、空を見上げた。

 薄い灰色の霧が取れた空は、青く綺麗だ。

 その空にテトラの星の白い光の線が続いている。


 空を見上げれば、いつでもそこにはテトラの星がある。

 おまじないは、今日も変わらずそこにあり、空から星を見守っていた。

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テトラの星 石動なつめ @natsume_isurugi

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