ズットイッショ

rainyfriend

ズットイッショ

 りなはまさに彼女のお手本のような俺の彼女だった。


 一緒に登校し、部活が終わるまで待ってくれて一緒に帰る。

 りょうくんまたね、と笑顔で言ってくれるりなは可愛くて優しくて俺の彼女にはもったいないくらいだった。



 ある日りなは死んでしまった。交通事故だった。酔っ払ったヤンキーの車が時速120キロで信号無視してりなに体当たりした。


 俺は悲しかった。けど今は元気を取り戻しりなは天国で幸せになっているだろうと信じ込んでいた。


 彼女の四十九日までは……


 りなの四十九日の日の夜、俺がもう寝ようとベッドに入って目を閉じようとしたその時だった。俺の目の前に白いモヤモヤしたものが現れた。なんだかわからなくてしばらく様子を見ていると


「りょうくん、りょうくん」


 その白くてモヤモヤしたものはしゃべり出した。


 ぎゃあああ


 僕は無我夢中で逃げた。怖かった。今日どこで寝ようか。ビビリな俺にはもう一度あの部屋に戻って寝るという選択肢はなかった。結局リビングのソファーで電気をつけたまま寝ることにした。

 ソファーに寝っ転がってしばらくして俺はあることに気づいた。


 あれはりなだったんだ。


 今考えるとあの声はりなのものだったし、何よりりょうくん、なんて俺のことを呼ぶのはりなしかいない。


 俺はすごく後悔した。りなは何か伝えたいことがあったに違いない。今ならりなはまだあの部屋にいるかもしれない。


 俺は急いで部屋に向かった。あの部屋にりなはもういなかった。


 その晩俺はあの部屋で寝ないでりなを待った。しかしりなはもう来なかった。




 次の日、部活が終わって友達のしんが俺の家に来た。新作のゲームをするためだ。夏のこの時期の俺の部屋は無茶苦茶暑かった。


「さっみーなおい」

 しんちゃんはそう言って出っ放しになってた俺のパーカーを勝手に羽織った。


「おいお前風邪か?今この部屋めっちゃ暑いんだけど。ほら」

 俺は31度を指している温度計を指差した。


「うわ、まじか。俺風邪?なんか心配だからごめん帰る」


 しんは帰っていった。



 それから夜になって俺はベッドに入った。


「りょうくん、りょうくん。」


 りなか、、顔を上げるとやっぱりりなだった。


「りな、昨日はごめん。」

「気にしないで。今日一日りょうくんのこと見てて、気持ちは伝わったから。」

「え?」

「昨日逃げられちゃってから、りょうくんは私のこと嫌いになっちゃったのかなって心配で今日一日ずっとりょうくんのこと見てたんだ。新庄くんがさむいって言い出した時はバレるんじゃないかって思ったんだけど、りょうくん、ほんとに気づかないんだもん。」


 そうか、だからしんはさっきあんだけ寒がってたんだ。

「それでね、私考えたんだ。りょうくんが怖がらないで私とずっと一緒に入れる方法」


 あいつはなにを考えてるんだ?

 俺は怖くなった。

「それどんなやつ?」


 りなはにこっと笑った。

「これからやってあげるね」


 そのとたん俺は動けなくなった。

「怖がらないでね」

 勝手に体が窓の方に動き出した。やばい。ここは10階だ。


「やめろ。お前のことなんか嫌いだ。離してくれ戻してくれ」

「嘘言っちゃって。大丈夫。これでずっと私と一緒だよ。大丈夫私も一緒だから」

 最後の抵抗を試みたが俺の体は全く動かない。俺死ぬよ、俺死ぬよ。


「じゃあいくよ」

 その瞬間俺の臓器がふわっと宙に浮いた。



 頭に直接声が入ってきた。


「ズットイッショダヨ」

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