~そして、彼らは~・4
――名前も、過去も、姿でさえも失って落ちてきた男が一人の少女と出逢い、幕を開けた物語。
幾つもの数奇な巡り合わせを経て進んでいった彼等の冒険は、ここでひとつの終わりを迎えた。
その後彼らがどうなったのかは……それはまた別のお話。
――――――
「それでえーと、すべてにうえしもの? は最後どうなったんだ?」
「バカかキサマ、消えたに決まっているだろう」
古ぼけた石碑が佇む、とある森の花畑にて。
話を聞き終えた子供達の質問タイムが始まった。
「……世界を滅ぼそうとした馬鹿者は、浄化されたあと一粒の小さな種になったそうじゃ。そしてそれはこの森に埋められた。もう、寂しくなどならぬようにな」
語り部の少女はゆったりした口調で答える。
「ほれ、そこの一際大きな樹がそうじゃよ」
「っ!?」
少々口の悪い褐色の肌の少年の傍に聳え立つ大樹を指し示してやると、少年は思わずそこから離れた。
けらけらと、語り部の楽しそうな笑い声。
「お兄さんぶってませたふりしてもガキんちょじゃのう」
「……つっ、作り話だ。だいたいマナとか精霊とか聖依獣なんて、今はどこにもないだろう。この世界はアラカルティアなんて名前でもないしな!」
「世界の名前に関してはおぬしの歴史の勉強不足じゃし、今ないからって昔もなかったとは限らぬ。それに、精霊は“どこにでもいて、どこにもいない”ものじゃから……感じ取れなければいるもいないも決めつけられんじゃろ?」
案外身近なところにおるかもしれんぞ。
そう言いながら少女はしゃがみ、少年の胸をトンと拳で軽く叩く。
「うぐっ、へりくつだ……」
時代は移り行くもの。
兵器に傾倒した魔学が滅び、より身近で実用的なものに変化したこと。
遥か昔は人間と当たり前に暮らしていた聖依獣が、里に隠れ住むようになったこと。
そしてそれからさらにさらに、時代は変わり。
目の前にいる子供達……三人のうち一人は小さな光の翼を、もう一人は灰色の獣耳と尻尾を生やしている。
そんな彼らや淡い焔の衣を纏った語り部自身の明らかに人間とは違う姿も、永い時の流れの内に移り変わっていった結果のひとつである。
「ま、わしもだいぶ前にひとから聞いた話だったような気がするし……あれ、どうだったかの?」
「そこは曖昧なのか……」
「でも、いいと思う」
しばらく考え込むように黙りこんでいた一番年少の、獣耳尻尾の少年が口を開いた。
「どのくらいかわからないけど遠い昔にそういう人たちがいて、そんな出来事があったんだって……考えるのは、たのしいよ」
「うむうむ、おぬしはロマンのわかる子じゃのう♪」
語り部が少年の頭をわしゃわしゃと撫でてやると、照れ臭そうに俯いた。
「もっと、お話ききたい」
「オレも!」
「よーしよし、何の話がいいかのう?」
楽しげに響き渡る声を受け、大樹の葉がそよそよと揺れ、擦りあって音を奏でる。
囁くような、静かな風。
穏やかで心地のよい風が、そっと彼らの髪を撫ぜていった……――
Tales of Masquerade
――完――
Tales of masquerade 万十朗 @manjurou0405
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