~そして、彼らは~・3
王都から遠く離れ、のどかなシブースト村にて。
「えーい! 正義の味方、おめんマンだぞー!」
「ぐわぁーやられたぁー」
孤児院ではあの災厄を乗り越え、元気に走り回る子供達。
彼等の中では最近新しいヒーローが誕生したらしく、ごっこ遊びによく登場するようになった。
そんなほほえましい光景を前に、広場のベンチに腰掛けてひとり上の空な少女、ミレニア。
人知れず世界を救った彼女の顔は晴れず、そこにいつもの元気はなかった。
「ミレニアおねえちゃん、どこか痛いの?」
「だいじょーぶか?」
心配してやって来た双子のシナモンとカネル、その後をとことことシュクルも寄っていく。
「……いつまでそうしているつもりぞ」
返事は、ない。
それでも構わずシュクルは続ける。
「デューはあの時、どこにも見付からなかった。だが、あいつがそう簡単に死ぬと、本気で思っておるのか?」
しばし、沈黙が支配する。
ややあってミレニアの口が重くゆっくりと開かれた。
「わしだって、信じたくない。けどあれからどれだけ経った? 無事ならいい加減ひょっこり出てきてもいいじゃろ」
「それは……」
「すぐ行く」と言って三ヶ月、さすがに不安が募るのは他のメンバーにとっても同じことだった。
それでもみんなどうにか前を向こうとしている中で、ミレニアだけが時が止まってしまったようで。
「水辺の乙女もじゃ。水精霊の気配自体が消えた訳ではないようじゃが、何故デューともども姿を見せない?」
精霊はどこにでもいてどこにもいないというが、だったら彼女だけでも現れることは可能なのではないだろうか。
大精霊なら契約者のことも把握していそうなものだが……
「「むー……」」
ミレニアとシュクルは思考を巡らせた末に唸り声をハモらせた。
シナモンとカネルには二人の会話の内容は難しく、どちらともなく見合わせる。
すると……
「あれ?」
「お兄さん、だあれ?」
歩み寄る人影を幼子達が不思議そうに見上げた。
背丈や年頃はトランシュと同じくらいだろうか、背には大剣を携えフロスティブルーの髪をさらりと靡かせ、藍鉄の瞳でミレニアを捉えると、真っ直ぐそちらに向かっていく青年。
「――!」
ミレニア、シュクルの目が大きく見開かれた。
直感が弾き出した青年の正体に、ぼろぼろと涙が溢れてくる。
「ったく……遅刻もいいとこ、大遅刻じゃ、ばかぁ……」
「こっちもいろいろあってな……っておいおい……“また”泣くのかよ。悪かったって」
しょうがねえなと笑う顔、目線の高さはだいぶ上になった。
声も完全に青年のもので、ミレニア達が聞き慣れたそれとは明らかに違う。
……けれども。
「デュー……!」
「よっ、ただいま」
躊躇わず呼んだ名前に、長身の青年はいつもの調子で応えるのだった。
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