~そして、彼らは~・2

「ダクワーズさんが倒れた!?」


 王都の城下町にあるスタードの屋敷内、一階の居間にて、フィノが驚きの声をあげた。


 あの旅のあと、仲間達は別れを惜しみつつもそれぞれの生活に戻っていった。


 ミレニアとシュクルはシブースト村に戻り、イシェルナは再び気ままな旅に出た。

 フィノは故郷の東大陸へ、カッセはマンジュの里へ。


 リュナンやオグマは王都に残り、しばらくの間トランシュ達騎士団の手伝いを。


 過去から来たダクワーズは帰る場所がないため、元の時代と同じように騎士団に入り活躍しつつ、スタードの屋敷で暮らすことになっていた。


 それでも九頭竜の路やブラックカーラント号を密かに使い、たまにこうして顔を合わせていたのだが……


『うん。急に倒れるとか、ダクワーズらしくないっていうか……ああ~心配だよぉ~、ダクワーズ、ダクワーズぅ……』

「部屋で休ませて医者に見せているんだが、ずっとこの調子でうろうろしているんだ」


 王として、大精霊としての威厳もどこへやら。

 自分の周りを不安そうに飛び回るランシッドに、スタードは呆れた様子で溜め息をついた。


「あのダクワちゃんがいきなり倒れるなんてねぇ」

「スタードさんは心当たりがあるんですか?」

「ん……いや、ちょっとした勘というか……」


 そこに、いやにしっかりとした杖の音が鳴り、


「慌てる必要はありません」


 スタードの母ホイップの刃を思わせる冷たく鋭い目が、実体化しているランシッドを捉えた。


『けどホイップおばあちゃん、あんなに元気だったダクワーズが……』

「そんなにうろたえては頼れる父親になれませんよ」


 父親。


 一度耳を通り過ぎた言葉が、ややあって浸透するまで、ランシッド含めほぼ全員がホイップの発言の意味を理解できずにいたが……


『そっそっそれって……!』

「おめでとうございます、ランシッドさん!」

「あらあら、うふふ♪」


 いち早く状況をのみこんだフィノとイシェルナが祝福の言葉をかける。


『スタード様は気付いていたんですね』

「私も通った道だからな。とはいえ……」


 ランシッドも遠い昔に経験しているはずなんだが、なんて言うのは無粋か。


 続く台詞を引っ込めたスタードに、風精霊が首を傾げた。


『スタード様?』

「なんでもない。それよりオグマ達にも報せて……」

「その必要はありませんよ、スタード殿」


 入り口からの声に振り向くと、オグマ、リュナン、トランシュ、カッセ……共に戦った仲間がほぼ勢揃いしていた。


「マンジュの里からマーブラム城へこちらの近況を報告に参ったところ、イシェルナ殿とフィノ殿の姿を見かけたのでござる」

「それで久し振りにみんなで会って話せたらって思って来たんですけど……思わぬビッグニュースを聞いちゃいましたね」


 カッセとリュナンが互いに見合わせて微笑む。

 一気に報せる手間が省けた、と言いたいところだが……


「届けに行かなくちゃね、このニュース」


 トランシュの呟きで、まだこの場にいない者の顔を全員が思い浮かべる。


 こんな話を聞けばいつもだったら真っ先に騒いでいるであろう少女と、小さな聖依獣と……


「……まったく、どこに行っちゃったのかしらね」


 お姫様を待たせる騎士だなんて。


 あれからずっと行方の知れない少年剣士の顔を思い出し、イシェルナが困ったように笑った。

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