[おっさん宅空き巣ゲーム]の女子高生

ちびまるフォイ

そして世界は回ってる

「あなたが"おっさん空き巣ゲーム"の参加者ですね?

 本当に女子高生かどうか確かめるので学生証を」


「はい」


「……たしかに。では参加を認めます」


「その前に、本当にお金はもらえるんですか?」


「ええ、もちろん。ただしあなたがゲームに勝てたら、です」


趣味のためのお金欲しさに申し込んだ"おっさん空き巣ゲーム"。

ルールは事前に知っていたものの、本気なのか信じられなかった。

スタッフは慣れた口調で話し始めた。


「今、あなたがいるこの町内はすべて独身男性の家になっています。

 そのすべてに鍵はかかっていません。

 どこかの自宅に空き巣に入って、各家の私物を空き巣してきてください」


「空き巣っていうか……中にいるんですよね?」


「はい。あなたたち女子高生が空き巣に入ることは事前告知済みです。

 でも、どの家に入るか、どのタイミングで入るかはわかりません。

 どの私物を盗まれるかも、おっさんには伝えられていません」


「はぁ……」


「制限時間内に家に入らなかったらお金はお支払いしません。いいですね?」


いったいこのゲームをやって誰になんのメリットがあるのか。

まあ、お金がもらえるならそれでもいいけれど。


参加者の女子高生がひとり手を挙げた。


「どうして制服着用なんですか?」


「私服だと、おっさん達はあなたたちを参加者だと判別しにくいからです。

 あくまでもゲーム参加者としてのユニフォームとして考えてください」


「もうひとついいですか?」

「どうぞ」


「もし、私物を回収できなかったら?」


「別にどうもしません。私物をスタッフのもとまで届けた段階で報酬が発生。

 途中で怖くなったら家に入らないとかすればいいだけです」


すると、空手着を着た女子高生が両掌をパンと合わせた。

ある意味あれも制服と言えば制服なのでセーフらしい。


「ハッ。どんなおっさんの家だろうと、

 あたしは空手と少林寺拳法と合気道を習ってんだ。やっつけてやるぜ!」


「あ、おっさんへの暴行をはじめとする危害を加えるのは反則です」


参加者の女子高生たちは持っていたスタンガンや催涙スプレーや

長距離弾道ミサイルのボタンやらを軒並み没収された。


「では、ゲームを始めます」


スタッフは町内全域に聞こえるように、スタートの合図を鳴らした。




「なお、参加しているおっさんはゲーム参加者の女子高生に

 なにをしても許されるようになっていますので、捕まらないように」



最後の一言で、スタートを切ろうとした女子高生たちの足が止まった。

一部の覚悟を決めた女子か、怖いもの知らずの女子だけが町内の家をぐるりと見回し始めた。


「残り30分……!」


ゲームの時間は1時間。

30分以内にどこかの家に入っていない参加者はリタイアされる。

どこか狙えそうな家は……。


「って、どこ狙えばいいのよ!」


どの家も隙だらけのように見えて警戒しているようにも見える。

玄関の戸が口を開けたトラバサミさえ見えてくる。


「きっと、私たちが入るってこと警戒してるよね……」


路傍の石を拾うと、隣の家のガラスに向かって投げた。

パリンと小さな音が鳴った後、隣の家からはガラスが割れた音以上に

派手な足音がドドドと聞こえてきた。


「いまだ!」


私は隣の家を無視して、目の前の家の玄関に滑り込んだ。

窓からの侵入を警戒していたのか家主はいなかった。


「はぁはぁ……せ、セーフ。

 玄関で待ち受けられていたらどうしようかと思っちゃった……」


隣の家にさも侵入させたかに注意を引き付けたのが良かったか。

四つん這いになって足音を消しながら2階へと向かう。


制服がミニスカートなだけに無防備というか煽情的というか。

こんな姿だけは見せられない。


「……となりか」


1階から男の声がした。

猫のように2階へ避難した。


「来ないな……」


階段から玄関を見下ろすと、おっさんは玄関ののぞき穴から外を監視している。

まだ私が入り込んだことには気づいていない。


監視するなら侵入されやすい1階に限るから、2階はある意味安全地帯。


私は支給されたスマホを使ってこの家の私物を照合する。

このおっさん宅では、下着を回収するようなっていた。


「まるで逆下着ドロボーじゃん……」


スマホから顔を上げた瞬間に、ターゲットの下着が見つかって声が出そうになった。


(うっそ!? こんな簡単に見つかっちゃった!! ラッキー!!)


干しっぱなしの下着を手に入れるとあとは脱出するだけ。

2階から外に出ることも考えたけれど、植木もないので危ない。


カーテンをロープ代わりにすることも考えたものの、

作業でまごついたり音で気づかれでもしたら即アウト。

2階は安全地帯でもあり、袋小路でもある。


「おっさんが玄関から離れるタイミングを待つしかないか……」


いつでも逃げられるよう階段の上から玄関の様子を見る。

ちょうどおっさんが玄関に来たとき、ガチャンと鍵を閉めてしまった。


(うそ!?)


おっさんは自分の家に女子高生が来ないと思ったのか鍵をかけた。

ゲームのルール上、家に入れなくするのは反則だが、出れなくするのは問題ない。


なにより一番問題なのは鍵を開けるときに音が出てしまうこと。


おっさんとはいえ男なので強引に振り切ることなど不可能。

スタッフに下着を届ける前に捕まってしまう。


「ど、どうしよう……」


みるみる時間が過ぎていく。


(あーー! もう、早くどっか行ってよ! トイレでもいいから!)


心の中で何度も念じたがおっさんは動かなかった。

そして、ゲーム時間の1時間が経過してしまった。


ふと気が付いた。


「あれ? でも、1時間でゲーム終了とは言われてなかったような……」


支給スマホでルールを再確認してみても、

30分以内に家に侵入しないと反則だが、残り30分以内に届ける必要はなかった。


じゃあなんで1時間と区切っているのか意味はわからないものの、

とにかく時間の制約がなくなればタイミングはある。

おっさんがトイレなり席を外した時に出ればいい。


私とおっさんの我慢比べがはじまった!!



……かに思えたが、おっさんは再び玄関にやってくると、鍵を開けてしまった。


(え? なんで?)


私がいることに気付いて脱出させてあげようとするわけない。

理由はわからないもののこのチャンスを逃す手はない。


おっさんは再びせわしなく1階を巡回し始める。


外から捕まったのか女子高生のかん高い悲鳴が聞こえた。

おっさんは声の聞こえた窓へと向かってスケベ根性で覗きにいった。


(いまだ!!)


玄関に向かう、まさにそのとき。



――カチャ。



静かな音とともに、女子高生が玄関から忍び足で入って来た。


(な、なんで……!?)


女子高生は2階に来ることなく、1階の部屋へと消えていった。

1時間で区切っていた意味がやっとわかった。


(このゲーム、タイムテーブルがあるんだ……!)


1試合目の参加者が私で、次に入って来たのが次の挑戦者。

もし、ここで私が脱出してしまえば、後に入った彼女はどうなるのか。


見つからない下着をえんえんと探し続けることになり、やがて見つかるだろう。


「……もう!!」


私は覚悟を決めると、手に入れた下着を女子高生が隠れている1階の部屋の前に落とした。

ソレに気付いた女子高生は下着を握ると、慌てて家の外に出て入ってしまった。


「あ!! しまった!!」


女子高生がダッシュで派手な音を出したので、

家主のおっさんも気付いたときにはもう遅く追いつけなくなっていた。


「はぁ……油断した……」


おっさんはがくりと膝をついて落ち込んだ。玄関の鍵もかけてしまった。

支給されたスマホには、私が潜んでいる家に「回収済み」のスタンプが押される。


(ああ……もう終わった……)


きっとさっきの女子高生が下着を届けたのだろう。

次の3試合目が始まっても、もうこの家に来る女子高生はいない。


男が玄関を開けてくれるタイミングはなくなってしまった。



ピリリリ。



スマホの着信音が鳴った。

私は慌てて自分の支給スマホの電源を切ろうとしたが――


「……私じゃない?」


おっさんのスマホだった。

なにか通知が来たようで食い入るように画面を見ている。


男は急に鼻息が荒くなり、玄関に向かって猛ダッシュ。


(まさか!? 私の存在がばれた!?)


慌てて2階に引っ込んだが、おっさんは私には目もくれず玄関を開けて外に出た。


「な、なんなの……?」


これ以外にもう脱出タイミングはないので、やっと外に出た。

おっさんはゲームスタッフの下へと走っていた。


「はぁっ……はぁっ……ぼくの、ぼくの私物は……!?」


「ご協力ありがとうございました。はいどうぞ」


おっさんはスタッフにお金を支払うと下着を買い戻していた。

いったい何をやっているのか、わけがわからない。


「はぁ~~!! JKがぼくの下着を触ってくれたんだ!!

 まだちょっと手のぬくもりが残ってる……!! すぅ~~~!! はぁ~~!!」




「うわぁ……」


おっさん空き巣ゲームの儲けの仕組みがやっとわかった。

わかってしまった。


おっさんは鼻歌を歌いながら、JKに奪取された下着を持って帰った。

あれほど気持ち悪い生物がいるとは思わなかった。


「帰ろう……。本当に気持ち悪い……」


もう二度とゲームに参加することなく、私は家に帰った。

今はとにかく充電したかった。



家に帰ると、イケメンがプリントされた抱き枕に抱き付いた。


「タクヤ~~♪ 今日、キモイおっさんで気分悪くなっちゃったの~~!!

 くんくん、あぁ、タクヤはいつもいい匂いするぅぅ~~!!!」


抱き枕をめいっぱい抱き寄せて、顔に向けてキスをする。

そして、1ヶ月前の握手会から1度も洗っていない右手をなめた。


「タクヤの味がするぅ~~!!! はあはあ!!

 女子高生の握った自分の下着を嬉しがるなんて、

 オッサンて本当にキモいよね、タクヤぁ~~~!!!」




明日はイケメンが私の家の私物を空き巣に来る予定。

楽しみすぎて今日は眠れる気がしない。

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