集団


 さて、人が集団で行動をとるとき、それは何を意味するか。まず思い浮かぶのは家族ですね、血のつながりであったり、はたまた絆であったり。あとは、集団で行動することによって説得力が増したりしますよね、あとはそうですねぇ....


 一種の決意表明ですかね?


 意味がわからない? まぁまぁ、今回はそんなお話です。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 以前私が通っている高校のことを話しましたが、今回は通学路についての話です。何ぶん、自分が通っている高校というのは俗に言う田舎と呼ばれる場所でして、高校のそばにあるもう一つの高校と付属の大学以外はあまり特質した建物はなくて、高校のそばに通っているバスなんかも夕方からは2時間に1本と、ずいぶん不便でして。


 自分は基本的に高校に通っていた時はバスを利用していたのですが、部活の終わりが7:00とかになると、次に来るバスが8:30とかで、長い時間待つ必要がありました。バス停のそばには川が流れていて、土手にはサイクリングロードがあり、みんなは「青春ロード」なんて呼んでいましたが、確かに放課後に野球部が走ったり、吹奏楽部が楽器を吹いたりする姿は、確かに絵になりましたね。ですが、そこは夜になると街灯ひとつもない全くの暗がりになって、昼の「青春ロード」の面影は何処へやら、あまり自分でも通りたくないなと思うような場所へと変貌します。


 さて、その日もバスの到着を待って暗いバス停のベンチに座りながら音楽を聴いていました。クタクタになりながらぼんやりと青春ロードを背後に土手と自分の座っているバス停は高低差があって、そこでバスが来るのを待っていたんですよね。


 聞いている音楽は基本的にクラシックが多かったんですが、基本的に有名どころでして、ラプソディー・イン・ブルーとか聞いて待っていたわけですよ。


 さて、ちょうど耳の中が金管楽器で埋め尽くされていた頃です。


 急に雑音が入り始めたんですよ。


 自分、一応音楽をやってた身として耳はいい方でしたから。自慢ではないですよ?


 なんだか、ノイズのようなものが入り始めたんですよね。


 中学生の頃に買ってもらったウォークマンですから、古くなってそろそろ替え時かなと思ってたんですよね。ですから故障かと思ったんです。


 でも、一回イヤホンとの接触端子を拭いたりしてみると元に戻ったので接触不良かなと思いあまり気にしませんでした。


 しかし、数分後。


 再びノイズが入り始めたんですよ。ちょうどピアノの導入部分でしたので聞き間違いではなかったですね。はっきりと聞こえました。


 再びイヤホンを外し、端子を綺麗にして流したのですが、どうもノイズが酷い。そして数分後、今度は曲が止まっちゃった。


 思わず、ため息をついて静かにジーっと待っていたわけですよ。


 すると、夜風に混じって何かが聞こえてくる。


 車の音かと思いました。けど、なんかそれよりももっと独特で。


 人が大勢で歩くような音が聞こえましたね。


 何かデモをやっているのかなと思いました。しかし、そんな夜中にやるようなこともありませんし、ましてやデモで訴えるような施設もありませんしね。不思議な話でした。


 そして、徐々に近づいてくるその、人が集団で歩いているような音は自分の後ろの方から聞こえてくるような気がします。


 となると、土手の上から近づいてくるというわけかと思いました。とにかく、でも関係とかだったら絡まれるのが嫌なので、ずっと下を向いていたんですがどうも様子がおかしい。


 音が。


 ザッ、ザッ


 といった感じで一定なんですよ。


 まるで行進しているみたいで。


 こんな時間に、行進? いや、そんなことがあるわけが....


 と思った時、ふと思い出したことがありました。


 ここは第二次世界大戦の時、兵器工場があって。当時軍の施設も近くにあり、そこが集中砲火に会ってものすごい死人が出たとか。それで、夜中になると戦争に行く兵隊が未だにこの道を歩いているんだって、というのを聞いたことがありました。


 そう、いわゆる心霊スポットだったんです。自分の通学路は。


 そんなことを思い出したもんですから、まさかと思い。いよいよ顔はあげられませんでした。


(マジかよ....)


 まさか、こんなことが起きるなんて思いませんでしたしね。全身冷や汗が止まりませんでした。


 そして、だんだんと近く足音。


 ザッ、ザッ


 後ろの方へと近づいて行く音


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ


 そして、背後にまで迫ってきた。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ


 耳の中が行進の足音で埋め尽くされた。


 ザッ!


(え....?)


 自分の後ろで、突如行進が止まる音がした。


 そして、その中の一人だろうか。


 土手を降りてくる者がいる。


 サク....サク....サク....


 全身から吹き出た汗が風で乾く。寒いわけでもないのに、震えが止まらない。背中がゾクゾクする。


 サク....サク....


 人の気配を感じた。


 自分の真横で。


 顔を上げてはいけない。絶対に。


 その時だった。


『お前は、行かないのか?』


 はっきり聞こえた。


 確実に人の声だ。歳は自分と同じくらいか、それ以上か。若い男の声だった。


 そして、その問いに対して。自分は顔を横に振るしかできなかった。


 その反応を見たのだろうか?


 サク.....サク....


 遠くへと、離れる音が聞こえる。


 そして。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。


 徐々に遠くへと行進が離れて行く音が聞こえた。


「....ハァ....」


 深く、ため息を吐いて夜空を見上げる。星なんか出ていませんでしたが、緊張した後にみた夜空は何か違うものに見えました。


 ふと、膝の上に落ちた桜の花びら。


 彼らを送るような、紙吹雪にも思えました。


 自分も、そういえば今年は見送られる側かと、そう思いました。


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供養 西木 草成 @nisikisousei

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