先輩


 さて、付喪神。というのをみなさんはご存知でしょうか?


 どうやら説明によると長い年月使い古されたものに宿る、精霊や、神様のような類いのものらしいです。まぁ、アニメやら小説やらで一時期ブームになりましたからご存知の方は多いと思われます。


 今回は、その付喪神にまつわる話です。


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 さて、高校時代。私は吹奏楽部に所属しておりまして、そこでトランペットを吹かせてもらっていた時期があります。別に自慢話とかそういうわけではないですよ。


 さて、楽器の練習というのは基本的に地味なものが多いです。まず、肺活量を鍛えるためのブレストレーニング。そして、音をキレイに出すためのマウスピース練習。そして音をまっすぐ伸ばすために、決められた音階で音を長く伸ばすロングトーンなどなど、やっていて練習にはなりますが楽しいものでもないです。


 当時1年生で、飽きぽかった私は、練習をよくサボってはボーッとしていたりと、あまりよく褒められた部員とは言えませんでした。そんな時の話です。


 吹奏楽部にはトランペット以外にも様々な楽器があり、トロンボーンやホルン、木管だとクラリネットやサックス、フルートなどがありますが、大抵学校の教室での練習では場所が割り当てられているものでして、主にトランペットのパートは音楽室が割り当てられることが多かったんです。


 自分の通っていた高校の音楽室というのは高校の古い校舎にあり、建て替えられた新校舎とは繋がっているものの、やはり目に見て古さを感じます。


 そして、音楽室は入ったことのある人なら分かると思いますが、基本的に音楽室と音楽準備室に分かれておりまして、トランペットパートの新人部員には音楽準備室が割り当てられていました。


(....ハァ....暇だ....)


 その日は、ちょうど自主練習が中心でして、他の新人部員たちは風邪で休んでしまい、自分一人が使うにはちょっと広い準備室をその日は割り当てられていました。


 そして例によって、自分は基礎練習に飽きてしまい、もらった楽譜をペラペラめくったりなどして時間をつぶしていました。時折隣の先輩たちが様子を見にきたりするのですがなんとかごまかしたりして、その日を終えようとしていました。


 さて、吹奏楽部員の必需品の一つとしてあげられるものであるのが、メトロノームです。あの、振り子でテンポを測る奴です。


 そのメトロノームを当時自分は持っておらず、いつも準備室に置いてある古いブリキの棚から取り出して使っていました。そこには、歴代の先輩たちが残していったメトロノーム類が収まっており、処分に困った先輩方が寄贈という形で放置してきたものを勝手に使ってきたわけです。


 棚を漁り、いちばんきれいで使えそうなメトロノームを取り出して見にもならない練習を続けようと思っていました。


 あと2時間で部活が終わる。


 そんなことを考えて。


 そしてふと見たブリキの棚。


 ギィー


 と、音を立てて開くわけです。


 誰も触っていない。かといって自分が閉め忘れたわけではない。


 一体何が....


 と思ったその時。


 バタン


 と、扉は何も触れることなく突如として閉まったのです。


 強くなった自分は、隣の音楽室に飛び込んで、先輩にその話を説明したのですが、結局誰一人として取り扱ってくれませんでした。


 そして、3年後 


 卒業した今思うのが、もしかしたらあのブリキの棚には付喪神みたいなのが宿っていて、不真面目な自分を叱ってくれたのではないだろうか、と。あそこに収まっているメトロノームが起こした現象なんじゃないか、と。


 さて、自分が吹奏楽部時代に買ったメトロノームは一体どうしたか?


 当然、あのブリキの棚に収めています。


 自分のメトロノームもまた、あそこの一部となって。


 不真面目な部員を驚かしている、のかもしれませんねぇ。

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