八つの輪が無くなるまで

 ある朝、少女・明崎 紬(つむぎ)がなにか気がかりな夢から目をさますと、部屋の真ん中に黒い犬がいるのを発見した――

 紬を「角なしの女」と呼ぶその犬、魔王アシュラムの出身はガガゼト山、では無く異世界。なんか勇者的な人により力を封印された上、角有り美丈夫の姿まで犬に変えられてしまった。元の世界に戻るには角に嵌められた八つの輪っかを壊すしかない。そのために紬はアシュラムの契約者として夜な夜な化け物退治に駆り出されます。

 異世界のイケメン魔王と地味な女子高生! 唐揚げにレモン並の最高の食い合わせでしょう? わけのわからない黒い犬との出会いから紬ちゃんの日常は変わっていきます。化け物退治の間だけ真の姿を現すイケメンは、心根までイケメンで、すごく卑屈な女子高生の抱える苦しみを正面から受け止めます。すげない両親から抑圧され、自尊心を持てずに鬱屈した少女、そんな紬ちゃんと屈託なく接し、彼女の心を癒していく……。これぞ王の器、そんな彼自身もまた紬との交流の中で変わっていきます。

 しかしそんな日々も期限付き。化け物を倒すたびアシュタムの角についた輪はどんどん取れていく。紬ちゃんがアシュタムとの交流によって両親の頸木から解き放たれてるほどに彼との別れが近づいていく。

 癒しと切なさのバランスの妙が光る中編約五万字、最高に面白かったです!