25

フレイは、鞄から地図を取り出す。

見たところ、この近辺10キロ四方というところか。


「まずはこれを見てくれ」


言われずとも。だが、それは何の変哲もない普通の地図。特に、これに何かがあるとは思えない。


「んで注目欲しいのは、ここだ」


フレイはそう言って、ある部分を指差す。

そこはここから数キロ離れた場所、ゴミ処理場だ。


「ここ……今、どうなってるか、知ってるか?」


今どうなっているか、か。俺はこの町の地理に興味を持ったことはないからな……。


「いや。それがどうかしたか?」


するとフレイは間髪入れず返した。


「ここ、今操業停止してるんだよな」

「ああ。……待てよ?てことは……」

「なかなか察しがいいな、迅火」


同じ仕事をしているのだから、ある程度考えが似通っていても何ら不自然ではないかもしれない。ただその影響が、こんな場面にも浸透してくるとは思わなかったが。


湖の魚が、パチャンと音を立てる。

俺たちの話し声以外には何も音がないため、余計に目立って聞こえる。


「なんとなくだけどな……もしかして、ここが賢人襲撃の理由を突き止める、大事なピースになってるんだろ?」

「……そんなことは誰でもわかる。迅火、お前ならその『大事なピース』ってのが何かもわかると思うんだがな」


なんともざっくりした物言い。

……やや不快感。

まあこんな俺に付き合ってくれているのだから仕方ないかもしれないが。


「まあな。要するにアレだろ、襲撃者のアジトとか賢人の行動に関わりがあるとか」

「……それぐらいわかってもらわないと、F-ノグリーフと手を組むことはできないな」

「……わかってるさ。そもそもそれすらも分からないほど鈍いなら、国協の一級諜報員なんて務まんないしな」


話がいつの間にか逸れている。今はこんなことはどうでもいい。

フレイ、早くお前の作戦と、ここで話をした理由を聞かせてくれ。


「それよりもだ。それはいいとして、なぜ俺にそのことを?」

「そうだったな。ここが大事なんだ。実はたった今、湖とゴミ処理場跡地の空間を繋いだところだ」


理解に数瞬を要した。

つまり、フレイらこことゴミ処理場を繋げた、と?


「それは、もっと具体的に言うと」

「この湖の底とゴミ処理場の建物の目の前の空間をそれぞれ繋げた。だから、湖に潜ってそこを探せば、今すぐ移動できるってことだ」

「……もっと端的に言えばいいものを。今から行くんだろ?そこに」


もっと、どストレートに言ってほしいところはある。

フレイはところどころ隠して言うからな。情報を第一に求める俺としては、あまり好きなタイプではない。


「わかってるじゃないか。んじゃ、今潜れるか?」

「ああ。だが、少しばかり準備をさせてくれ。制服のままだし、見舞いのときの持ち物じゃ、な」


着替えたり装備を準備したりすることは許してほしい。それが、「俺」という戦力を最大限に引き出すために必要なプロセスだからな。


「分かった。なら、今少しの間だけお前の家とここを繋ぐ。3分で支度してこい」

「2分で十分だ」


俺は言い、フレイが生み出したゲートをくぐる。

するとそこには、見慣れた俺の部屋が。

幸い姉貴は帰ってきておらず、俺たちの目論見が邪魔される恐れはない。


さあ、何が必要だろうか?

俺は考え、吟味し、そして──

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