24

ふと携帯を見ると、フレイからメールが届いていた。


『今から会えるか?場所は問わない。15171』


15171──俺とフレイで決めた、のときの連絡の印だ。表向きの用件か、裏側の用件かをはっきりさせるためだ。


「……なるほど」

俺はそれに返信をし、携帯を閉じた。


『それなら、賢人の病院の近くの自然公園で会おう』




そして自然公園・ベンチ。

俺は自販機で水を買い、飲みながらフレイを待っていた。

そして、ベンチに座ってから10分後。


「おーい、迅火かー?」


道の向こうから、声がする。

こんなセリフを言えるのは、一人しかいない。


「……フレイ」


見ると、何やら物騒な鞄を背負っている。真っ黒の革製で、なんとも貴重そうだ。


「いやー、日本にはこんなとこもあんのか。しかも都会のど真ん中に……にしても、きれいな雑木林だな、人工か?」


ここは外、フレイは学校での体を装っている。

まあ、諜報員としては当然か。


「……興味があるなら個人的にまた来ればいいだろ。

そんな話はあとにしよう、何の用だ?」


俺は単刀直入に問う。

雑談のためにここへ寄ったわけではない、15171とメールにあったから来たまでだ。


「そうそう。賢人のことなんだけど……って、ここで話するのも、な。場所変えようぜ?」


そう言われて、俺はふと周りを見渡す。

左手の人工芝では幼子がボールで遊んでおり、フレイが来た方の雑木林には小学生だろうか、昆虫採集をひている。そのほかにも、ランニングしているお年寄り、煙草をくわえて黄昏れているサラリーマン……

この話をするには、さすがに躊躇われる。


「そうだな、移動するか。南の方に小さな湖があるらしい、そこなら安心して隔絶できると思うが……」


そこでフレイは、俺の言葉を遮った。


「いや、隔絶はしない。外じゃないとできない話だからな」

「……外じゃないとできない話?」


俺は眉をひそめた。

隔絶されたところでしかできない、というのならわかる。

だが、そこではだめ、と。外、つまり現実世界でないとできない話。

そうなると、随分と不思議なものだ。まあ、フレイの空間隔絶がどのようなものかは詳しくはわからないが、もちろん外にしかないものもある。例えば、木々や湖など。


要は、それらが話の中で出てくるということだろう。

だが、つまりそれはどんな話だ……?

とりあえずは、話の内容を聞かない分にはことは進まない。俺たちは移動することにした。


「わざわざ悪かったな。何か用事でもあったのか?

ここにしよう、だなんて」


フレイは俺の横に並んで歩く。

友達かわからない関係ではあるが、やはり外面はこうしていたいのだろう。

俺も、そこについては何も言わないし、触れない。


「ああ、それか。賢人の見舞いに行ってたからな、それで病院から近かったんだ」

「なるほどな。それで、落ち合えそうな場所が、ここだったと」

「そういうことだ。自然公園だから、人がいない場所も多くあるだろうと思ってな……だけど、まさか隔絶しないとはな」


ところどころに設置されている案内板を見ながら、俺たちは湖へと進んでいく。

思えば……

フレイも、よくわからない。

その陽気な表情の裏には、今にもはち切れそうなヘイトがあるはずなのに。

それでもやはり、日向の世界を求める。

悲しくも、複雑な状況に立たされた人のうちの一人───


そうこうしているうちに、俺たちは湖の前へとやってきた。

フレイが、口を開く。


「じゃ、早速話を始めるか」

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