23

とはいえ、まずは賢人の容態のほうが先だ。

俺は賢人の見舞いに行くことにした。


病院にて。

俺は病室のドアをノックし、中に入る。


「……おう、迅火か」


賢人は、か弱い声で言う。

その声にはいつもの元気さや覇気がなく、やはり賢人は重体だということを自然と気づかされる。


「大丈夫か?どうしたんだよ、賢人」


もちろん賢人のことは心配だ。

だが、いつまでも心配ばっかりしていられない。

非情と思われるかもしれないが、立ち止まってばかりでなく先に進まなければならない。

それに、この程度で非情というのならば、戦争を引き起こしたことは一体どんな言葉を使えば事足りるのだろうか。


「まあ、そんな命に関わるほどでもないらしいからな、暫く休んでれば治るさ。それよりも……」


その先に続く言葉は、容易に推測できた。


「一体、何があったんだ?俺自身よくわからないからな、迅火が知ってること全部教えてくれ」


まあそりゃそうだよな。

いきなり襲われて入院だなんて、訳が分からなさすぎる。賢人としては、事情を少しでも把握したいだろう。


「ああ。俺が賢人を見たのは朝、登校してきたときだ。一番乗りぐらいの時間で来たからな……だいたい7時ぐらいか」

「なるほどな……てことは、俺が来てから5分は経ってたってことだな」

「5分、か。……?なんで、賢人はそんな早くに来てたんだ?」


俺は、それとなく情報を聞き出す。俺よりも賢人が早く来ているのは、謎でしかないからな。


「ああ、俺か。……実はさ、朝の時計が狂っててさ」

「……時計?」


あまりにも的外れな答えに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。


「それはなんとも……。どのぐらいずれてたんだ?」

「どのぐらいか。そうだな……だいたい30分ぐらいか。それがなきゃ、いつも通りに登校してたんだけどな」

「なるほど……」


まあ、物騒な答えじゃなくてよかったってもんだ。そこまでは平和だったんだ、よしとしよう。


「話が逸れたな。続きだ。そんで俺は血を流して倒れてるお前を見つけて、即座に救急車を呼んだ──そこまでだ」


俺の知っている情報、といってもこれくらいしかない。というかそもそも、だからこそ賢人から聞き出そうと思ったのだから。


「……じゃあ、しばらく教室のドアが開かなかったってのは……?迅火、それについては」

「それは知らないな。さすがにあの場に留まる訳にもいかないし、先生呼んだりしてたよ」


ここについては、厳重に隠さなければならない。フレイとの繋がり、俺が幽閉した理由など、知られてはいけないことばかりだからだ。


「……そうか。ありがとな」

「いや、いいんだ。それよりも、無事……ってわけでもないが、そこまで重くなくてよかったよ」


と、そこで病室のドアが開く。


「白岡さん、検査の時間ですよー」


看護師だ。やはり、ここまでの怪我を負うと検査も入念にしなければならないのだろう。


「じゃ、検査行ってくるわ。迅火はどうする?」

「んー……、検査となると時間かかるよな……。そうだな、帰るよ」

「おう、そうか。今日はありがとな」

「いいって。それよりも、早く治せよ」


俺は最後に賢人を一瞥してから病室を出る。

そして、廊下を歩きながら考える。


(賢人の時計が狂ってたってことは、早く来てたのは偶然ってことだな……であれば、なぜ賢人を襲撃したのか、だな)


俺は、ある考えを胸に病院を出た。

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