小休止2

読者への挑戦状

 ここで物語を中断し、本作の探偵役・松山まつやまいのりが犯人を突き止めたことをお知らせします。

 彼の見聞きしたことは、語り手である梅沢うめざわきずなつまり、読者あなたと同一であります。


 私、作者は読者に


 ……の前に、ちょっとだけ雑談を。

 本作は、超人的な頭脳を持つ探偵が一足跳びで真相にたどり着くような快刀乱麻かいとうらんまの物語ではありません。

 論理ロジック――というと何やらとっつきにくい感じがしますが、作者が考える論理とは、『当たり前の積み重ね』であります。


 当たり前とは『大抵の人が納得できる事実』です。


 鮎川哲也賞の選評で、作家の北村薫さんがこんなことをおっしゃってます。

『《A》について考えれば、次に《A以外の者》について考えねば、選択肢を消したことにならない。こういったところを落ちなく、細かく詰めていく過程にこそ、論理の喜びがある筈だ。』(一部改変の上抜粋)


 これは、とても厳しい言葉であると私は思います。

 論理を重視した物語では、探偵が述べたことが安易に正しいとみなされません。読者を納得させることが前提で、そうでなければ不出来とみなされるからです。


 といっても、『Aである』ことに必ずしも納得せず、『Aじゃないかもしれない』と考える一部の読者もいるわけで(自分もそんなひねくれ者の一人でありますが)、完璧を目指しながら割れやすいガラスの上で構築するような、そんなあやうさを持つ物語でもあります。


 雑談はこのくらいにして。


 ミステリ素人の無鉄砲さで私は、読者の皆様に挑戦しようと思うのです。


 すなわち――“投票用紙を盗んだのは誰か?”

 

 当然ながら、犯人は登場人物の中にいます。


 わざわざ投票会場を舞台にしておきながら、犯人の動機が「なんとなく」とか「ちょうどメモ用紙が欲しかったんだよね!」じゃあやり切れませんので、広義の意味で『選挙妨害』であることを作者の立場から付記しておきます。


 ちょっとした頭の体操です。

 ミステリ初心者の方も、百戦錬磨の方々も、どうかこの拙いパズルを完成に導いて頂きたいのです。


 それでは、解答編にもお付き合い頂けましたら嬉しいです。

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