平易な言葉で紡がれる浮遊感

 自らが操縦桿を握って空を舞うことのできる人はごく僅か。
それゆえに、パイロットを主人公とする物語に実感を伴って
没入できる人もまた、ごく僅かではないかと思います。

 その乖離を埋めようとして、特に小説はなまじ細かく説明
できてしまうため、必要以上に専門用語を駆使して操縦動作
やパイロットの心理心情描写に行をさき、結果として中々
物語自体が進行せず、読みづらくなっていくことが多いのです
が、本作は異なります。

 本作での描写は主に“飛行機に乗っている者から見える景色”
と“その飛行機を見つめる者”そのものに多くの行をさき、それ
により読者に“一緒にその飛行機に乗っている”浮遊感覚を与え
ることに成功していると感じました。

 この後シリーズが進んでいけば、いずれは細かい専門的な
話題や単語も増えていくことがあるのでしょうが、こうした
手順を踏んで少しずつ加えていくなら、脱落することなく
ついて行けるのではないでしょうか。

 このヒロインと一緒にまた次の空を見たいと思っています。

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