BLOOM─超能力犯罪対策係─
新成 成之
病と呼ばれる力
二年前の事だ。アメリカ、ニューヨークの郊外にて、ある事件が起きた。その事件とは、人が多く集まるスーパーマーケットで、中規模の爆発が起きたというものだった。死傷者は十数名、その他にも大勢の人が病院に運ばれるなど、世界各国に報道された。
しかし、この事件の真髄はその犯人だった。犯人は、地元のスクールに通う十代の少年。彼は日頃から勉学に励み、友達に慕われる、優秀な学生だった。しかし、少年は普通の少年ではなかったのだ。
その事件において、犯行現場からは凶器と思しき物は発見されず、一時はそれで世間を騒がせたが、その後の報道で世界は凍り付いた。
現場に設置されていた防犯カメラの映像によると、少年は家族と一緒にスーパーマーケットに来ていた。そして、野菜売り場に来たところで少年の様子が急変。突然体を抑え、もがく様にその場で暴れだすと、その直後、少年の体はまるで爆弾の様に、爆音を発して爆発したのだ。そのあまりにも常識外れな光景に、世間は言葉を失った。一方、世間ではデマではないかという冷やかしの声も流れた。
しかし、その事件を発端に、世界中でこの事件のような常識を外れた事件が次々に起こったのだ。フランス、イギリス、オーストラリア、中国、ロシア。そして、ここ日本にも。世界中はこの怪事件の恐怖に包まれた。そして、ロシアの研究機関があるとんでもない報告を世界に発信した。それは、世界中で発生した一連の怪事件の犯人全てに、共通の病気が見つかったというものだった。ロシアの研究機関はその病気をこう名付けた。
「
*****
「
そう言って対策室に入って来たのは、後輩の
「先週から立て続けに起きてる新宿の連続放火事件あるじゃないですか。あれの犯人が
萩原は、部屋に置かれたホワイトボードまで行くと、これまで捜査一課が調べてきた事件についての書類を一枚一枚磁石で貼っていった。
この世界に「
「
たが、いくら全人口の20%といっても彼らを甘く見てはいけない。「
しかし、彼らも所詮は人間。常識破りな力を得たところで、その力の強大さに溺れ、犯罪に手を染める者が後を絶たない。そんな「
「以上の結果から、犯人と思われるのは
それまで事件の経緯や、捜査一課の捜査記録を説明してくれていた萩原は、最後に犯人と思われる青年の写真をホワイトボードに貼った。
細い瞳が特徴的な、どこにでも居るような青年という印象。
「という訳で柳田さん。さっそく、
元捜査一課の後輩は荷物をまとめると、俺の支度を急かしてきた。
*****
「
赤坂のビル街に佇む広告代理店で、萩原と俺は
「彼は普段どんな人でしたか?」
手帳をメモに、萩原は熱心に聞き込みを続ける。これ以上聞いたところで、捜査一課が既に聞いているのだから何も期待出来る収穫はないだろう。そう思い、俺は
「ちょっと、柳田さん!何勝手に人の机漁ってるんですか!」
萩原の忠告を他所に、きちんと整理された書類を適当に取り出すと、パラパラと中身を確認していった。
「刑事さん、何回も言ってますけど、
上司にそこまで言われるとは、この
「先輩?どうかしたんですか?」
俺を心配そうに覗き込む萩原を横目に、俺はすぐ様対策室に戻った。
「えっ?!柳田さん!?いきなり帰らないで下さいよ!」
*****
ホワイトボードに並べられた今回の放火事件の現場を眺める。どれも半径500m以内と、狭い範囲での犯行となっている。
「柳田さん・・・、せめて僕に何か言ってから動いて下さいよ・・・。いつも自分勝手に行動するんですから・・・」
俺は咄嗟に
「自宅ですか?それなら、さっきの上司曰くここら辺な筈ですけど」
そう言って指さしたのは、犯行現場範囲からほど近い場所だった。
「現場から近いから
俺はすぐ様これまでの事件の日を確認した。すると、最後に事件が起きたのは一昨日の午前1時。オフィスビルが一棟半焼する事件だった。その前はその二日前、その前はその三日前。現在の時刻は午後7時。今からならまだ間に合う。そう思い、俺足早に対策室を飛び出た。
「だから柳田さん!行くなら、行くって言ってくださいよ!」
*****
「全く、張り込むならそう言ってくださいよ。何も準備しないで張り込むなんて、正気じゃないですよ、全く」
そう愚痴をこぼす萩原だが、手に持ったコンビニの袋から缶コーヒーを取り出す。
「柳田さんのも買ってきました。別に、いらないならいいんですよ?俺が飲みますから」
照れ臭そうにコーヒーを差し出す萩原にお礼を告げると、コーヒーを受け取った。それはありがたい事に温かいコーヒーで、俺が寒がっているのを見かねて買ってきてくれたのだろう。流石は俺の後輩だ。俺はさっそくカンを開け、温かいコーヒーを体内に取り込んだ。次第に体は温かくなり、体の震えも収まってきた。飲み干した空き缶を左手に持ち替えた瞬間、それまで仄かに温かったスチール缶は突然高温となり、握っていられないほどの温度になると、思わず手を離してしまった。
「柳田さん!あれ!
赤く腫れた左手に息を吹きかけながら、萩原が指さす方を見ると、そこには覚束無い足取りで歩みを進める
*****
俺には家族がいた。無愛想な俺には勿体ないくらいの美人な奥さんに、元気が有り余った5歳の息子がいた。奥さんとは警察学校に入る前からの付き合いで、卒業後二年の同棲の後籍を入れた。子供はその二年後、母子共に健康な状態で産まれてきた。俺はその子に「
しかし、悪夢は突然訪れた。
ニューヨークでの事件があった半年後、俺は警視庁の捜査二課でとある事件の捜査をしていた。その日も遅くまで仕事が長引き、家に帰る頃には日付を越えていた。俺は、家族を起こさないようゆっくり扉の鍵を開けると、小さくただいまと呟いて中に入った。すると、おかしな事に家の中はサウナの様に熱気が立ち込めていたのだ。何事かと思い慌てて台所に向かうも、火は出ておらず。ガスの元栓もしっかりと締まっていた。そうなると、家の外か。そう思い台所から外に出ようとした瞬間、2階から何かが崩れた音が聞こえると、奥さんの悲鳴が聞こえてきたのだ。俺は一目散に2階に駆け上がり、悲鳴が聞こえて来たのは、
「どうした?!」
俺が扉を開けたその瞬間だった、凄まじい爆発音と共に俺の体は家の外まで吹き飛ばされてしまった。薄れゆく意識の中見たのは、燃え上がる我が家と真っ黒に焦げた奥さんの死体だった。
後日、病院で目を覚ました俺は、奥さんと
「鑑定の結果から、お子さんの
俺は何も知らなかった。まさか、まさか息子がそんな事になっているだなんて。その時の俺は事件の捜査で連日遅くに帰ることが多く、
そして、「
俺はこの時、初めて「
*****
「柳田さん!大丈夫ですか?!柳田さん!?」
ぼうっとしていたのか、俺は萩原の声に意識を取り戻した。
俺はすぐ
「柳田さんどうしますか?」
俺達、超能力犯罪対策係には幾つかの特権が与えられている。その一つに、「犯人が
「後一歩なんですけどね」
萩原がそう呟いた次の瞬間、
「わぁぁ!!柳田さん!!
全身に炎を纏う
「ア、ツイ・・・タス、ケテ・・・タス・・・ケ・・・」
炎の中で、
「タスケテ・・・」
すると、
「まさか、柳田さん!?打つつもりです?!」
俺は引き金に手を掛け叫んだ。
「お前はこいつが助かるとでも思うのか?!お前だって分かってるだろ!?こいつはな!もう死んでるのと変わらないんだよ!!だったらな、せめて苦しめないで、楽な死に方をさせてやるのも俺達の仕事じゃないのか?」
引き金に当てた人差し指は痙攣しているかのように震えている。
「タスケテ・・・タスケテ・・・」
「なあ、何で
俺達超能力犯罪対策係には、末期の
*****
それから二日後、俺は萩原と共に
「
そう言って俺のスーツを握り締めたその手は、確かに震えていた。
超能力という常識を超えた力。それは、一体何の為に生まれてきたのか。その答えは、きっと
BLOOM─超能力犯罪対策係─ 新成 成之 @viyon0613
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