暗闇に勇者のシルシ

　ある戦場で、残された魔物の死体にナイフをつきたてる男の姿があった。
　男は勇者へ近づく詐術のために命を冒涜しようとしていた。

　そこは灰色の中世欧州と酷似しながら、いまだ魔の存在が失われていない大陸。
　これはその片隅にあった、勇者と呼ばれるための証「運命の印」をめぐる物語。

　それぞれ特異な能力をもつ魔物と、それぞれの思惑で戦いに身を投じる人々。
　彼らは暗い森の奥で、捨てられた古城の底で、たがいに利己と利他のはざまで知恵をしぼり、もがきながら勝利を目指す。

　ここに、きっと目新しいものは何もない。
　出てくる要素はファンタジーにおいて定番の素材ばかり。狡猾なだけで無力な主人公もありふれているだろう。
　ただ、冒険者と敗走者と逃亡者が争いをつづけ、その混迷のなかで出口をさがすだけ。…続きを読む