暗闇に勇者のシルシ

@Qtarou

内幕 魔物の首

第1話

 白煙と死臭がただよう荒野で、ひとりの男が魔物の首にナイフをつきたてていた。


 農奴服を着たその男、アラートンが魔物を倒したわけではない。戦場に残された死体から、手柄として使えそうなものに目をつけただけだった。

 まわりで動くものは血に汚れて風にたなびく軍旗だけ。撤退がかなわなかった戦士は、魔物も人間も倒れふし、かわいた風に屍をさらしている。


 アラートンが選んだ魔物は蛙そっくりで、ぐったり力のぬけた口がぱっくり開いている。

 頭頂には放射状の角が生えていて、王冠のようにも見える。

 蛙人王キングトードと呼ばれる魔物で、他の水辺に棲む魔物を戦場でひきいていた。


 アラートンは魔物のたるんだ喉を引っぱり、ナイフの先端で裂いていく。

 ぬめった皮をむいて露出した筋肉は、繊維と垂直に切る。

 頸骨の関節にナイフをさしこみ、力で軟骨を断つ。

 がくんと首が折れるように頭が切りはなされた。

 筋肉をむきだしにし、中心に骨がのぞく切断面は、人のそれとよく似ていた。


 アラートンは地面に布をひろげ、切りはなした魔物の首をころがし、手早く包む。

 魔物の首を背負うと、ずしりと重い。人間と変わらない背丈なのに頭部の大きさは倍近くある。

 足元が悪いこともあって、立ちあがる時に少しふらついた。


 ひとり戦場から走り去りながら、アラートンは考えをめぐらせた。

 この首を手土産にどうやって教会にとりいり、勇者シュナイに近づくか。

 長い逃亡の旅でようやくつかんだ機会だ。すべてはどれだけうまく騙せるかにかかっていた。

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