タイトルにもあるポルが、本編の主人公。生まれつき声が出せず、彼女の母であり国一番の歌姫でもあるリーアンからは、満足に語りかけてもらえる事も、微笑みかけてもらえる事もありませんでした。
ーー自分に声さえあれば、歌さえ歌えればーー
そう思案しつつも平穏に過ごしていたある日の事、リーアンが出先で何者かに殺害されてしまいます。
ーー死に顔にすら浮かべられた微笑みが、私に向けられたことは一度もなかったーー
悲嘆と絶望の中、その死の真相を探るため、15年間屋敷から出たことすら無かった彼女は、特異な出会いを果たした盲目の少年、ルズアと共に旅に出ることになります。
ポルにとっては何もかもが初めての出来事。彼女が感じる、身体が火照るような活き活きとした喜びも、喉が詰まるような重苦しい絶望も、時に気持ちの悪いほど生々しく伝わって来て、気付けば文章を読んでいる事すら忘れて物語の中に吸い込まれている。
彼女とともにアルバート王国の空気を吸い、音を聞き、泣き、笑い、冒険出来る。
そんな不思議な魔力の宿った作品です。
貴族のキナ臭い思惑、登場人物に突きつけられる理不尽で残酷な運命、それらが鮮烈に描かれるからこそ、そのギャップで、時折見える人の優しさや何気ない日常の団欒はとても温かく心地よいし、希望のある方向に進もうとする冒険からは、いつか見た少年漫画のような言い様の無い高揚感を味わう事が出来ます。
ストーリーを通して陰と陽、絶望と希望、不穏と平穏のバランスが絶妙で、読んでいて全く飽きない、そんな作品となっています。
個人的に、今後の展開が待ちきれない、オススメ作品です!
(蛇足気味ではありますが、たまのバトルシーンは動きが快活でとてもカッコよく、加えてオススメ出来る要素です!)
声なき少女は、憧れと共に「外の世界」へと飛び出した。
次に飛び出す時に抱いていたのは、覚悟と使命感だった。
本に書いてある事だけが、世界の全てではなかった。
初めてだらけの世界を歩むべく、少女は想いを燃やし続ける。
道標となるその灯りは、少女の為に留まらず、やがて、周りの人々にとっての確固たる希望となる。
どうしようもない状況に陥っても、転んでしまうことがあっても、諦めずに歩き続けるポルちゃんと、彼女を支え助ける周りの人々の姿に、何度も胸を打たれました。
共に歩む仲間が、それぞれの形で望んだ「外の世界」。読者として、これからも一緒に旅する中でそれらに立ち会えるのが、嬉しくて楽しみです。