主人公のポルはまもなく十五歳になる少女。彼女は生まれつき声を出すことができず、高名な歌姫である母は、彼女には見向きもせず屋敷に閉じ込め、彼女の双子の妹であるメルばかりを可愛がっているように見えます。
と、ここまで読むと、シンデレラのように虐げられた可哀想な娘さんが大逆転する物語かなとも思ってしまうのですが、あにはからんや。
双子の妹のメルはポルのことが大好きで、屋敷の使用人たちもポルのことを心の底から大切に思い、仲良しのメイドのエリーゼはポルの誕生日のプレゼントとして、彼女を外に連れ出す約束をしてくれます。喜びのあまり、鼻血を出しながらも浮かれるポル。鼻血を出しながらめげずに大喜びするヒロインというのを初めて読んだ気がします。強い。
そして、エリーゼの贈り物の外出で盲目の少年ルズアと出会ったポルは、やがて母の死という大きな事件を迎え、魔法書を持って彼と共に旅に出ることになります。母の死の謎を解き、どこかにあるという不思議な泉を見出し、自分たちに欠けている声と、視力を手に入れるために——。
西洋、東洋さまざまな世界の特徴を持つ国々とそこに住む人々。世界地図を描くだけでは飽き足らず、海や湾、入り江の一つ一つにまで名前をつけてしまうくらいのこだわりの作者さんの壮大な世界観で描かれるこの物語は、そこで暮らす人々の営み——喜びも悲しみも、全てが丁寧に描かれている上に、母の死や魔術書、そして魔法の謎などとにかくあらゆることが気になってページを繰る手が止まりません。
現時点で50万字超となかなかのボリュームですが、章ごとに大きな展開があるので飽きるということがありません。とにかくまずは章単位で読んでみるのをおすすめします。
魔法を巡る大冒険に、歌姫を利用しようとする貴族の陰謀。腐敗した王国へのレジスタンスに、国同士の争いと、それによって生まれてしまった孤児たちの過酷な日々。さらには学園ミュージカル(!?)まで、本当にさまざまな要素がぎゅぎゅっと詰まった、それでもポルとメルならきっと大丈夫と、日々の勇気をもらえるような作品。
ぜひ、日々のことに悩みを抱きがちな、子供から大人に変わる世代、そしてかつて子供であった大人たちにも読んでほしい一作です。
一章を読み終えてのレビューです。
声なき少女ポルが魔術書を手掛かりとして母の死の真相、そして自らの声を取り戻すために、スラムで暮らす盲目の少年ルズアと旅立つ――。
旅の目的は希望に満ちているようで、しかしすべてを希望だけでは語れない複雑は思いと状況があります。たとえポルが声を取り戻したとしても、その声をいちばん届けたかったはずの母は亡くなってしまっている。声を取り戻したあと、彼女はどうするのか、周囲の人たちはどう変化していくか、不穏な人たちとどう向き合っていくのか。それはこの先のお話を楽しみにしたいと思います。少年ルズアとの距離感が旅を経てどう変化していくのか、そちらも楽しみです!
世界観の作り込みには目を見張るものがあります。
読んでいるうちにちょっとしたトリップ感があるくらいです。馴染みのない情景のはずなのにありありと目に浮かぶのはこれ、凄まじいことだと思います。
最後になりますが、(おそらくクラシックな)メイドの格好をしたポルが指で筆談したり、リアルに戦うメイドのエリーゼの描写には、やられました。ゴロゴロとベッドで転がってしまいました。愛らしい。最高です。
醒めることなんてありません。保証します。じっくりと、どっぷりと世界に浸りたい方におススメ!