第15話 からころり

 からころからころ。私の大切な虹色のオパールが階段を落ちる。らせん形の、果てしなく続く階段を。私はめまいを起こしそうになりながら、くるくると階段を回りながら降りた。大切なのだ。何よりも。だってあれはおばあさまの形見なのだから。……

 大きな黄水晶がはめ込まれた立派な宝石箱に、オパールは安置してあった。おばあさまが蓋を開いて見せる度に、オパールは他の派手な宝石を凌いで、夢のように輝いたのだった。

「いつかお前にやるからね。相応しい娘になったら」

 と、おばあさまはよく言った。私はそれが楽しみで、相応しい人間になろうと努力した。お洒落をしたし、勉強もした。人に優しくもした。私は完璧なはずだった。

 なのになぜだろう。おばあさまが亡くなった日、宝石箱を開けると、オパールはからころからりと床に落ちて、そのままおばあさまの秘密のらせん階段に落ちて行ってしまったのだ。

 追い掛けて、階段を降り始めて何分も経つ。このらせん階段はどこまで続いているのだろう。

 思えばおばあさまは言ったものだ。

「私が死んだららせん階段を降りなさい」

 と。おばあさまの秘密のらせん階段。その先にあるものは? 想像もつかない。階段を降りれば降りるほど、ひたひたと恐怖がますばかりだ。

 オパールはまだ落ちていく。からころからころ跳ねながら。追い掛けるほどに辺りはどんどん暗くなっていく。私は諦めかけた。その時だった。

 だだっ広い場所にオパールは落ちて、小さく跳ねて行った。その先にあったのは。

 大きな大きなオパールの塊。いびつな形のそれは私より大きく、僅かな光の中で夢のように輝いていた。そしてその真ん中に、扉が付いていたのだ。

 私はそれをそっと開いた。ゆっくりと向こう側が見える。向こう側には、だだっ広い野原があった。行きなさい、と誰かが言った。私は、気づけば転がるおばあさまのオパールを追って歩きだしていた。――野原の向こうの真っ白な森に向かって。恐らくこれは、おばあさまが私に与えた試練。私は、大人になるために、歩き出した。

                                  《了》

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蒼い自由工作 酒田青 @camel826

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