第14話 甘い雨

 きみは空の中で、よく熟れた苺型の宇宙船に乗って、ぽつぽつある丸い窓の一つからたゆたうように手を振っていた。ぼくに振っているのかと思って振り返したら、きみはくるりと身を翻し、猫のように大きく背伸びをした。おそらく猫のように大きくあくびもしたことだろう。ぼくは苦笑して行き場の無い手を引っ込めた。

 ぼくの住む宝石街はとても退屈で、陰気な石造りの家々がお互いにむっつり睨み合っているような街だったのだけれど、きみがその真っ赤な宇宙船に乗ってやって来てから何もかもが変わったんだ。

 まずきれいな紫色のかささぎが何羽も飛び交うようになった。かささぎはきみの宇宙船を見に来たんだ。カチカチと鳴いてうるさいけれど、その日にかざすと青く光る羽はぼくらを楽しませた。

 そして大道芸人がやって来た。楽器を演奏したりバトンをいくつも投げたり、中にはナイフ投げ師なんかもいたりして、子供達を夢中にさせた。

 それから甘い雨が降ってくるんだ。舌にじんわりくる甘い雨。決して砂糖水のようではなく、すっきりとのどを潤すんだ。この雨は、何だろう。以前のように宝石が混じることも無いんだ。とても不思議だ。かささぎも、大道芸人も、ぼくらも、雨が降って来ると舌をちょっと伸ばすんだ。きみはそれを面白そうに見ている。

 今日もきみは空に浮かんだ苺型の宇宙船の中で起きて、長い亜麻色の髪をとかし、口紅を塗って、ぼんやりとぼくらを見下ろしている。

 謎のような毎日だ。以前には無かった美しい鳥、以前には無かった賑やかな大道芸人のいる道、以前には無かった明るい顔のぼくら、甘い雨。

 きみは一体何をしにきたんだろう。気になってならない。だけど聞いてしまったら、全てが台なしになるんだろうな。

                                  《了》

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