最終決戦のその後~エピローグ~
この事件は全国ニュースで放送され、世間に広められた。まずは、寺の家事について報道された。寺で燃え上がった炎に気付いた近所の人が消防に連絡したようだが、その前に炎は寺を全焼させると、勝手に消えていった。火事の原因を警察が調べたようだが、火のもとになるものが特定できずに終わったようだ。原因不明の火事として処理された。
報道を見ていて気になったことがあった。寺があった場所はもともと空き地だったと報道されていたことだ。そんなはずはなく、九尾が燃やす前は寺が建っていた。近所の人ももともとここは空き地でどうして火事が起こったのかわからないと伝えていた。
寺の地下室もその中の瀧の遺体も、瀧が寺の近くに埋葬したという8人の遺体も見つけられていない。これでは瀧に殺されてしまった8人があまりに浮かばれないではないか。8人はきっと今も行方不明扱いされているだろう。
いったい、どこに消えてしまったのだろう。もしや、九尾は寺の存在そのものを燃やしてしまったのだろうか。寺をそのままにしておくと、九尾にとってまずいことでもあった。寺を燃やすと言い出した時は突然すぎて何も考えることができなかったが、よく考えると、それならもっと早くにいってくれればいいはずだ。何も私たちが瀧逮捕に必死になっているときに現れて燃やさなくてもいい。
そもそも、今回の事件で九尾の行動は不自然すぎる。瀧逮捕に協力するという割に途中で姿をくらますし、最初に私の前に現れたときのタイミングが西園寺さんが殺された直後だったというのもおかしい。瀧が最後に話していた謎の少年の特徴を思い出す。中学生ぐらいの背丈で顔などを隠していたという。そして、その少年に力を与えてもらったという。そんな力を持っているのはよほど力の強い能力者か、もしくは神に匹敵するような人物に違いない。
西園寺さんを殺して得をする人物を予想する。西園寺さんのお父さんは自分の娘が何の努力もせずに西園寺家を継ぐことができることが気に入らない。他にも西園寺さんが後を継ぐことに批判的な人物は何人もいるだろう。その中の誰かの犯行か。
もう一人考えられる。考えたくはないが、九尾である。九尾は西園寺家を守護する神様だと言っていた。西園寺さんが殺された時も、これで契約は終わり、自由の身になったと喜んでいた。今回の事件は九尾が起こしたのではないか。
「さて、それはどうかのう。もしそうだとして、お主は我をどうするつもりだ。寺の存在は完全に人の世から消し去った。証拠はどこにもないと思うがのう。それに人間には我は殺せまい。まあ、契約とか言って、我を使役することは可能なこと。我を使役してみるかい。どうする、蒼紗。」
いつの間にか、私の近くにいたらしい九尾がささやきかけてくる。さて、私は九尾をどうしたいのだろうか。考えがうまくまとまらず、九尾の問いかけには無言を貫くことにした。
火事の他にもう一つ、世間を騒がせたニュースがある。西園寺グループの倒産である。それと同時に西園寺桜華が行方不明となっていることも取り上げられていた。西園寺さんとグループの倒産に関連性はないかとうわさが広まったが、確たる証拠は調べても見つからなかった。
西園寺さんといえば、子供の幽霊になってしまったわけだが、寺と一緒に九尾によって燃やされてしまった。遺体も当然ないわけであり、西園寺さんの行方は今後もわからないままだろう。そう思っていたが、九尾が細工していたようだ。
西園寺家の倒産が決まって2週間ぐらいして、西園寺さんが見つかったと報道された。うちの大学に通っていたが、退学届けを出していた。その後、京都の自分の実家に戻り、遺書を書いて自殺したことにされていた。神様は何でもできるらしい。
西園寺さんの葬式は西園寺グループの跡取り娘ということもあって盛大に行われた。西園寺さんがうちの大学に通っていることはもちろん知らなかったので親族は大変驚いたようだ。それもそのはず、彼女の姿に化けた九尾が京都にいて仕事の手伝いをしていたのだから知らなくて当然である。
葬式に私は参加しなかった。葬式は京都の実家で行われたそうだ。うちの大学の学生が多数参加したようだったが、私には参加する資格がないと思った。瀧の犠牲になるのを防ぐことができなかった。幽霊になった西園寺さんには直接会っていないが、雨水君に西園寺さんの様子を聞き、やるせない気持ちになった。もし、もっと早くに瀧の正体に気付いていたなら、西園寺さんが死なずに済んだのかもしれない。そして、九尾の行動の不自然さにもっと早く気付くことができれば、瀧を逮捕して警察に突き出すことができた。真実をもっと明らかにできたかもしれない。
私は西園寺さんを忘れないために、今も大学ではコスプレを続けている。ちなみに佐藤さんは事件の後も私に絡んでくる。よほど私が気に入ったのか、コスプレにも付き合っている。おかげで私だけが目立つことはない。目立つ2人組となっている。本人曰く、『蒼紗に気に入ってもらえるようにするためにはまずは形から』ということらしい。よくわからないが、特に害はないので放っておくことにした。
塾のバイトについてはやめることにした。瀧が働いていた塾「未来教育」は彼が行方不明ということで、他の講師を募集しているようだ。
私は別のバイトを探すことにした。今度は変なロリコン殺人鬼がいない普通のバイト先で働きたい。そうして探しているうちにまた、新しい塾が目についた。なんだかんだ言いながらも塾でのバイトは楽しかったので、同じような個人指導塾のバイトをしようと決めた。今度のバイト先の塾は「CSS(Child Support System)」という塾だ。面接に行ったが、今度は大丈夫そうである。担当の車坂という人物は若い男性でまだこの塾に就職して2~3年ほどの若手社員のようだった。今回は私の他にもアルバイトの人はいるらしい。どんな人と一緒に働けるのか楽しみである。さらに生徒も前の塾とは違う生徒を教えることになる。こちらも会うのが楽しみである。
雨水君だが、彼は事件の後、大学を辞めてしまった。西園寺家に仕える家に生まれてしまった雨水君は西園寺さんが亡き今は、自由の身らしい。今後の身の振り方を考えたいといって、どこかに行ってしまった。ただ、雨水君の能力である雨の力がある限り、どこにいても彼のことは探し出せそうだ。何しろ、感情がコントロールできなくなると、力が暴走して雨を降らせてしまうということを本人から聞いている。なので、突然前触れもなく雨が降り出した地域に雨水君がいる可能性が高い。最後まで、雨水君が普通の人と違うところは確認できなかった。本人曰く、とてもではないが見せられない姿だという。いつか見る機会があったら見てみたい。彼が大学を辞めてしまって残念ではあるが、自分の考えを持って自由に生きてほしいと思う。また、いつか私たちの前に現れてくれるといいなとは思っている。
西園寺さんが亡くなって自由の身になったのは雨水君だけではない。西園寺家の守護神でもあった九尾もまた、西園寺家から解放されて自由の身となった。彼はどうやら私を気に入ったようで私の家に居候を決めたらしい。私について大学に行くこともあれば、家でゴロゴロしていることもある。見た目が狐耳と尻尾を生やしたケモミミ少年でとてもかわいいので、私もつい居候を許してしまっている。とはいっても、瀧をそそのかして、西園寺さんやほかの見ず知らずの人を殺された黒幕である。かわいいとは言っても油断は禁物である。
私は別に九尾を許しているつもりはない。ただ、西園寺さんは運悪く、最悪な神に目をつけられてしまっただけだと思うことにした。薄情だと思われるかもしれないが、実をいうと、私はそれほど西園寺さんの死を惜しいとは思っていない。葬式にも参加しなかったが、どうやら悲しむための涙も持っていない非常な人間のようだ。長く生きているうちに感情というものがマヒしてしまったようだ。
瀧によって姿を変えられてしまった子供の幽霊たちは九尾の炎で翼君と狼貴君以外は炎に焼かれて消失してしまった。九尾曰く、『我の炎は浄化の炎。あやつらは我の炎によって浄化され、ちゃんと成仏していった』そうだ。そんなもっともらしいことを言われても、はいそうですかと信じることはできない。しかし、今まで塾で教えていた生徒が突然いなくなってしまい、悲しくはあったが、もともと人ではなく、幽霊であったので、あるべき場所に還ったということだろうと無理やり自分を納得させることにした。
翼君と狼貴だけはまだこの世に未練があるようで、そのまま現在も幽霊を続けている
住む場所がないので二人も私の家に居候している。うちには3人ものケモミミ少年をいることになる。しかも、彼らはなんといっても人間ではないので、これ以上年齢を重ねることはない。ずっと少年の姿のままである。彼らは私の癒しになっている。
こうして、今回の事件は幕を閉じた。そして、事件があった後も、私は普通に大学生活を送るのだった。私がどうして平穏を望んでいるのか、目立ちたくないのかについては機会があればまた話すことにしよう。しかし、今回普通の人とは違っても人生必死に頑張って生きている人たちと出会った。誰もが必死に生きていた。わざわざ平穏を目指して生きていかなくてもいいのだと思えるような人にもであった。刺激的な大学生活のはじまりだったといえよう。
そして、これからもいろいろなことが起こるだろう。そんな予感がする。今からそれが楽しみで仕方のない自分がいることに驚きを隠せない。
さて、大学生活はまだ始まったばかりである。今日も元気に大学に行くことにしよう。
幽霊だって勉強したい 折原さゆみ @orihara192
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