日本の魔女将校は如何にして戦うか

秋津洲正勝

第1話 札幌魔法第七聯隊

 日本は青島攻略でドイツ軍の魔法兵に苦戦した。その教訓を活かして創設された魔法兵科である。魔法使いは男性より圧倒的に女性が多く、通常通り男性だけで兵科を作っていたら三個聯隊も編成できず、軍法改正を行い魔法兵科のみ特例で女性も軍人になれることになった。


 西野佳恵は女子の倍率30倍の陸軍士官学校に合格し、無事に陸軍士官学校本科を卒業することができた。




「おお、藻岩山だ。」


 汽車の窓からは札幌の街や山が見えはじめた。札幌の生まれの札幌の育ちの佳恵にとっては親しみのある山だった。これから同期の厳島良夫、南沢香子、藤森咲江と帰隊するのはあの山の麓にある魔法第七聯隊である。


「待っていたぞ、立派になったじゃないか。」


 札幌駅で迎えてくれたのは、士官候補生の時にもお世話になった鈴木文雄中尉と杉原知子少尉であった。二人は幼馴染で大変親密な仲だと噂されていて、美少年、美少女のお似合いの関係であった。この二人は厳しくもあるが優しい人だった。


「君たちはこれから見習士官だな、そして一ヶ月もしたら陸軍少尉だ。」


「はい!、七聯隊の立派な将校団になれるよう頑張ります。」


「そうかそうか、頑張れよ。」


 聯隊に向かうさいに他愛もない会話をする。佳恵は自分は本当に陸軍少尉になって良いのかと考えていた。そんな考え事をしていると聯隊の営門が見えてくる。『魔法第七聯隊』と太文字で勇ましく書かれている。


「四名、只今帰隊しました。」


「遠路遥々ご苦労だった。」


 聯隊長に挨拶し同期四人は自分の中隊に向かう、この時の聯隊長は陸軍きっての切れ者とされる陸大恩賜の吉川丈夫大佐であり、後は陸軍大将かとも言われている。


「陸士本科を卒業し、只今戻りました。」


「久しぶりだね、佳恵ちゃんも立派な帝国軍人に見えるようになったよ。あの頃も可愛いかったけどね。」


「ありがとうございます、加藤さん。」


 加藤さんというの加藤綾子大尉で佳恵が隊附になった中隊の中隊長であり、同じ女学校の出身というのもあって、士官候補生の時よりお世話になっている。


 挨拶周りをしていると日も暮れてきた。淡々と食堂で食事を済ませて、見習士官宿舎で過ごす。魔法聯隊ということもあり、宿舎は男女別々に別れていて、厳島とは別れ寝台に横になる。すると、佳恵に香子が話し掛けてくる。


「佳恵ちゃんって縁談の話とかってないの?」


「さあね、両親の決めることだから。」


「そうね。実は私、こないだ地方人の方とそういう話があるって母に聞いて……。」


 佳恵にとってはあまりに唐突な話だった。佳恵は戦争が終わるまでは絶対に結婚はしないと決めていた。それに、隠してはいたが実は縁談の話は佳恵にもあった。


「どんな人、どんな人。」


 寝ていたと思った咲江が話に食い付いてきた。咲江はこういう話には人一倍敏感であった。


「写真も見たことないんだけど、同郷の帝大出身で東京で銀行員をやってるって聞いたよ。」


「帝大で銀行員なんて凄いエリートよ。羨ましい。」


「でも、結婚して妊娠なんかしたら陸軍をやめなければいけないのよね。」


 女性兵士には妊娠したら陸軍をやめなければいけないという規則があり、それは出産しても戻ることはできない。職業軍人の将校には厳しい話であった。


「そうだよね。せっかく陸士を卒業して将校になれるんだから。」


 『兵隊さんは可哀想だねぇー、また寝て泣くのかよー。』という消灯喇叭が鳴った。三人とも明かりを消して寝台に戻る。


明日からは猛訓練である。
















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