#3 理由
「さっきはごめん、変に色々聞いちゃって」
ラフバーガーへの道のりで、真一は楓の背中に謝った。
「もういいよ、謝らなくて。いきなり怒った私も悪かった」
「いや、自分の過去のことそんなに問い詰められたら俺だって怒っちゃうよ」
「そう?真一君は怒らなそうだけどな」
そう言って楓は振り返った。笑顔だった。
「ねえ、なんで真一君はなんで軽音部に入ったの?」
「真一でいいよ」
「じゃあ、真一はなんで軽音部に入ったの?」
そういえばなんで入ったんだろうと思った。元々は翔太と同じバスケ部に入ろうと思っていた。中学の軽音があれだから、軽音はもうやるつもりはなかった。でも、部活動一覧の軽音のページでなぜか惹かれた。それで軽音に入った。なんとなくだ。あげるほどの理由がなかった。
「うーん、なんでだろう、特に理由はないな」
「そっか」
楓は元に戻って歩き始めた。
「じゃあ、楓ちゃんは...」
「真一こそ、楓でいいよ」
「えっと、楓はなんで入ったの?軽音に」
「私は.....」
そう言って楓は黙ってしまった。しばらく静寂が続いた。真一が話しかけようとすると楓は話し始めた。
「わかんない、音楽が好きだからかな」
「え...そうなんだ...」
なんとも漠然とした理由だなと真一は感じたが、それは自分も同じなので口には出さなかった。楓は続けた。
「わかんない。でも部会の会場の教室の前を通る時、へんな気持ちがしたんだ、なんとも言えないムズムズというか、もどかしい気持ちがして。だから入った」
「もどかしい気持ち?」
真一は聞いた。30m程先にラフバーガーの看板が光っている。
「もともと軽音に入るつもりはなかったの。でもあの部活紹介の紙を見たときからなんか心に引っかかるものがあって。あの教室の前を通った次の教室でバレー部の部会がやっていて、そこに行くつもりだった。」
「そうなんだ...実は俺もそうなんだ」
「真一も?」
「うん。元々バスケ部に入るつもりだったんだよね、でも軽音になぜか惹かれた」
「そうなんだ」
ラフバーガーの店の前に着くと、楓は真一の方を向いた。
「なんだか、同じだね。境遇?って言うのかな」
「...確かにね、本当に似てる」
二人は店に入った。真一は健太が言っていた新作のバーガーを頼んだ。随分とボリュームのありそうなバーガーだった。隣の楓はチーズバーガーを頼んでいた。
注文を終えて受け取り口で「今日飯いらない」と母にLINEした。注文の品が出来上がると真一は先に座る席を探しに行った。席は二階と三階にある。二階に着くと、フロアを見回して空いている席を探した。ちょうど端の二席が空いていた。そこへ向かおうとした。
「おい、真一!」
横から声がした。翔太と健太だった。ああ、そういえばあいつらも来てるんだった。
「おう、健太、翔太。」
「そうかそうか、やっぱり食いたくなったか、新作。こっち座れよ」
健太はとなりのソファー席を叩いた。
「いや、今別の友達と来てるんだ、だからいい」
「え、そうなんだ...誰?」
翔太はポテトを頬張りながら聞いた。
「いや、バンド組むことになったやつだよ。二人で」
「え?たった二人で?それってバンドって言えんのか?」
健太は顎に手を当て、首を傾げた。
「しょうがないだろ、ほかに組むやつがいなくて、もともとある程度のグループはできている感じだったよ」
「そうなんだね...それはしょうがない」
「なんだったら俺たち誘ってくれりゃーやったのによ!な?」
健太はそのゴツい腕で翔太の左肩をボンッと叩いた。
「痛っ、ていうか野球部は兼部禁止でしょ...」
翔太はしかめっ面で叩かれた左肩をさすった。
「...真一?」
チーズバーガーの乗ったお盆を持った楓が背後から声をかけて来た。そして、真一は座っている二人と話していることを悟ると、二人に頭を下げた。二人も突然のことに背筋を伸ばして同時に頭を下げた。
「あ、この子だよ、組むの。清水 楓ちゃん」
「よろしくお願いします」と楓は言うと、二人も後から「お願いします」と発した。
「じゃあ、また後でな、ありがとう」
そう言い残すと真一と楓は端の席へ向かっていった。
「ねえ、健太。『清水 楓』ってさ、どっかで聞いたことない?」
翔太は健太に顔を向けた。健太は面食らった表情をしていた。返事はなかった。
「.....健太?」
「おい翔太、あの子の顔見たか?」
「もしかして、健太も覚えがあるの?」
「いや、違う」
健太は翔太を見つめた。
「な、なに!?」
「恋って...こういうことなのか...?」
「.....は!?」
歌ってもいいかな〜ふたりぽっちのバンド物語〜 えばらのぶお @NobuoEbara
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