#2 ラフバーガー

真一と彼女は2人でバンドを組むという報告を村本に済ませた後、元の後ろの席へ戻った。真一たちの報告が最後だったため、今村は次の指示を部員に伝えた。


「では、今決めたメンバーで自己紹介をしましょう、バンドで固まって各自で進めてください」


部員たちははチラチラと周りを確認しながらおもむろに立ち始め、「お前の机でいい?」や「こっち来いよ」などと言いながら集まり始めた。真一もそれをみて彼女の席に移動した。すると彼女は真一を見て


「動かさせてごめんね」


と言った。


「いや、ほんの隣だったし笑」


真一はそう返した。


「えっと...自己紹介?」


「うん、そうみたいだね、どっちからやる?」


彼女は首を傾げて笑ってみせた。目があったが一度そらして右上を見て考えるそぶりを見せてたか再び目を見て


「あ、じゃあ俺からやるよ」


といった。


「わかった笑、じゃあみてるね」


そういった彼女に真一は一度頷いて自己紹介を始めた。


「えっと、俺は本庄真一。クラスは1年5組、中学でも軽音部だった。ギタボやってた。でも歌はそんなにうまくないよ、ギターはどっちかというとアコギの方が得意かな...アコギ歴は結構あるぜ、ちなみに好きなバンドはslender's」


言い終えると真一は「次は君の番だよ」と言う目で彼女をみた。


「私は...」


そういう時彼女は一瞬詰まった顔を見せた。そして再び続けた。


「私は清水楓、1年1組です。中学は部活には入っていなかった。実は楽器はできないです、歌うことしかできません、真一くん?がギターできる子でよかった、好きなアーティストはBOUQUETです」


「...え、清水楓...?」


「はい」


「清水楓って...あの...清水楓?」


「...はい...」


「ゔえええええ!?」


真一は大声で叫び、椅子に座ったまま後ずさりした。教室は静まり返り、全員が真一と楓を見ていた。


「あっ....」


楓は人差し指を立てて唇に当てている。真一は元に戻って話し始めた。



「清水楓と言ったら、3〜4年前にテレビのカラオケ番組で優勝してから歌の天才少女として一斉を風靡したあの...?」


「一斉を風靡なんて...そんなこと」


楓は首と手を横に振り、否定した。真一はあまりの突然の出来事に興奮してしまった。


「だって、確か竜崎真司プロデュースでメジャーデビューもしてたよね...」


「今はもうやってないから」


「何でやってないの?もったいないなあ、あの歌声だったら全然アーティストとしてやっていけるのに...」


「...そんなのわたしの勝手でしょ」


「ぼくなんてさして歌が上手いわけじゃないのにギタボやらされて恥ずかしい思いしたくらいだからね、それなのにもったいないなあ」


「...」


「ねえ、ライブってどんな感じなの?俺まだ文化祭のしかやったことないからさ、あ、そういえば結局なんでやめたの?ねえねえ、何でやめたの?」


「そんなの私の勝手でしょっっ!!!」


再び教室が静まり返った。真一は突風にふかれた後のような顔をしていた。


「あ、ごめん...」


楓は目を開いて周りを見渡したあと、そう言って下を向いた。真一は斜めに傾いた体を立て直して、メガネを中指で直した。


「いや、こっちこそごめん、調子乗って」


5時30分。高層マンションの陰に夕日が隠れて部屋は暗くなった。村本は教室の電気をつけた。


「では、各自自己紹介が済んだところだと思うので、これから練習場所の説明を行います。練習場所は3階までの各西学習室と東学習室、そして4階の視聴覚室の7つです」


西学習室と東学習室といえば、ベビーブーム時代にできたこの学校が人数の減少によっていらなくなった2クラスを学習室にしたって誰かが言ってたな、と真一は思い出した。


「はい、というわけで、次回からどんどん練習していきましょう、最初は6月の定期ライブです、それに向けて頑張りましょう、...何か質問はありますか」


村本は質問がないことを確認すると宮崎にアイコンタクトを取った。そして「全員起立」と声をかけ


「第一回の部会を終わります」


と言い、号令をかけた。

真一はあまり深く頭を下げずにバッグを持って教室を出ようとした。


「まって」


楓は真一の背中に言った。


「ラフバーガーでも、寄らない?」

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