第1章

#1 出会い

2018年4月20日。


ホームルームが終わってからしばらく真一は健太と翔太と一緒に教室にいた。周りは忙しそうにしていた。スポーツバックを持ってそそくさと教室を出る者もいれば、重そうな楽器ケースを持っている者もいる。


「なあ翔太、ラフバーガーに新作出たの知ってるか?」


「え、そうなんだ。でも健太、野球部活動日じゃないの?」


「いや、今日は無しになった。だから暇ができてな。お前こそバスケ部は?」


健太はその坊主を指で少し掻いた。


「今日は顧問が出張。ていうか腹減ってないんだけど...」


「来てくれるだけでいちからさ、ほら行こうぜ!」


「...まあいいけど」


「よしきた!おい真一、お前も来ないか?」


健太が尋ねた。


「わりぃ、俺今日部活。数学学習室で部会。」


真一は荷物を全て詰め込むと、手に持って立ち上がった。


「また、明日な」


そう言って真一は教室を出た。


「なあ翔太、今日は二人で行こうぜ」


健太は翔太に声をかけた。


「別にいいけど」


翔太は真一が出て行った扉をぼーっと見つめたまま返した。


数学学習室は教室から廊下を進んで突き当たりで曲がって二教室分歩くとある。真一が廊下を歩いてちょうど角を曲がったところ、真一のクラスの女子二人が購買店で買ったお菓子の入ったビニール袋を持って喋りながら歩いてきた。彼女たちとすれ違った時同時に真一は数学学習室にたどり着いた。真一は学習室の横開きのドアノブに手をかけたが、一度思いとどまって、しばらく考えてから、ドアのガラスから中を覗いた。中は他の教室と比べて縦長になっていて白い長机が置かれている。その教室の前の方では先輩らしき人たちが幾つかグループを作り話しているようだった。そしてその後ろの方では同年代らしき人たちが、こちらも幾つかのグループで固まっている。黒板には「WELCOME TO THE LIGHT MUSIC CLUB」と書かれていた。そして教卓には男の人と女の人が立って、何かの紙を見ながら何やら相談をしていた。


いつまでもここにいても意味が無いと思い、真一はドアを開けた。「おーーまたきた!新入生!」と教卓に立っていた女の先輩が彼に言った。そして先輩方も「おー」「やったね」などと騒いでいる。真一は少し会釈してそしてそのまま一番後ろの列の真ん中の長机まで行き、荷物を下ろすと、その長机の右の椅子にそのまま座った。真一は、周りを見て、すでに数人の一年生はグループができていると悟り、スマホを取り出して「ぼっちなう。」とツイートするとそのままタイムラインを見始めた。


しばらくするとドアが開く音がしたので、真一はスマホをいじりながら目だけドアに向けた。はいってきたのは同学年らしい手提げバッグを持ったボブの子だった。彼女は真一と同じように歓迎されると彼と同様、軽い会釈をして、少し戸惑い、そして彼のとなりの長机に座った。真一は気にせずスマホに再び目を向けた。


教卓の女の先輩が時計を見て、その視線を隣の男の先輩に何か囁いた。そして男の先輩が頷くとすぐに女の先輩は前を向いて髪の毛を横へ流すと


「はい、というわけで始めます。私は、この軽音楽部の部長の今村と申します。よろしくお願いします」


「えっとお、僕は軽音部副部長の宮崎です、よろしくおねがいしまーす」


「宮崎ーしっかりしろよー!」と最前列の先輩が笑いながらヤジを飛ばす。どうやら部長と副部長だったようだと、真一は悟った。


真一は何気なく隣に目をやった。彼女は机に前のめりになって部長の話を聞いていた。前を見る彼女は何か考え事をしている目をしていた。真一は再び前を向いた。


一通り説明が終わると、「では、早速バンドを組んで見ましょう」と今村は言った。そして「できたら前に言いにきてください、はい、ドン」と宮崎が手を一つ叩いて言うと、前の先輩たちが立ち始めたので一年生たちも立ち上がり始めた。すでにグループが出来ている一年生や「一緒に組もう?」と周りに話しかけている者、大体が四〜五人でグループを組んで、部長に言われた通りに前に報告しにいく。


そんな中真一は誰にも話しかけられずにいた。横を向くと教室の窓の外からは先ほどより強く眩しい西日が教室に差し込んで、教室の中を茜色に染めていた。その光を彼は眩しそうに右手で遮った。すると、彼女がそこに立っているのがわかった。彼女は彼と同じように右手で眩しそうに光を遮り、顔を西日から背ける。すると、必然的に彼女と真一の目があった。彼女の顔は逆光で、真一からは見えづらかった。だが、目があったのはなんとなくわかった。二人は黙ったまま目を一瞬だけ合わせていた。そしてすぐに


「一緒にやりますか?」


彼女が真一にそういった。見えにくい彼女の顔が、たしかに笑ったのが真一にはわかった。


「いいんですか?」


真一は彼女を下から覗き込むようにして尋ねた。


「私でいいなら...やりましょう!」


教室に茜色の日の光が差し込んだ。明日は晴れになりそうである。

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