第2話イベント開始!!

 目を覚まして窓の外を見れば、すっかり朝日は昇りきって朝になっていた。

 窓の外に白いものが降っているように見え、気になってよく見ていると雪が降っている。

 それもそのはずである。

 師走の風物詩の代表と言ったら、誰もが雪を思い浮かばせるだろう。

 今は、12月23日の午前8時になったばかりであって今日から待ち望んでいた冬休みに突入したのだ。

 SwitchToolの販売会社であるクラーン会社も、売り上げを伸ばすためにこの時期を販売日に選んだのであろう。


 そんなことより、昨日は随分早くに寝てしまったものだ。

 本来予定していたことは、とりあえず現実世界の時間で3時間はプレイするはずだったのに、ログアウトしてしまい挙げ句の果てに寝るという始末になった。

 おかげで、今は全然眠気が感じられない。

 体をベッドから起こして、朝食を食べるために、一階へと向かう。


 リビングには、濃い色をしている茶色のテーブルに黒色のソファなどの一般家庭に置いてあるような家具が、配置されている。

 その部屋の横には、なんの隔てもなくダイニングキッチン。

 冷蔵庫の中から牛乳を取り出しコップに注ぎ、ガラス製テーブルの上に置いてあるカゴの中から、一つ菓子パンを拾い上げ、それらを口に流し込ませ朝食を素早く済ませる。


 すぐさま、二階の自室へと戻りエアコンの暖房の電源をつける。

 ある程度部屋が暖まってきたのを体で感じた頃、を頭部に装着する。

 そして、魔法の呪文を唱える。


「リードオフ!!」


 FW世界内では、ログアウトした時

 いたお世辞にも豪華とは言えないその宿屋にリスポンした。

 リスポンして早々に、視界の左上から点滅しているマークが映し出されている。

 ずっと点滅しているので、それをタップするとウィンドウが開いた。

 そのウィンドウには、早速イベントの告知が記載されていて、内容を読めば読むほど興味深いものである。


 イベント名は

〈黄泉津大神を攻略せよ〉

 下にスクロールしていくと、イベントの詳細が載っている。

 このイベントクエストをクリアすれば、報酬として特別な武器が手にいれることができる。

 さらに、その武器をもらえる定員人数は10人限定、つまりクリアできる人数も10人となる。

 10人だけが貰える武器となると、相当レア度が高く設定されているはずである。

 

 このゲームには、武器それぞれにレア度が設定されており、高いほどゲーム内に存在する個数も少なくなる。

 レア度が1〜4までは何個でも存在して、5になると約100本、6は約10本、7にまでなると10本以下になることは間違いない。

 おそらく、この武器をゲットすることができた暁には、そこらじゅうのクランから勧誘が来るはずだ。

 それでも、俺は入らない。


 イベントクエストの情報に気になることがいくつかあった。

 1つ目は、参加できる回数についてである。

 1人のプレイヤーにつき、6時間毎に一度できるということだ。

 1日に最大4回しか挑戦できない。

 これは、今までのどのゲームにも無い斬新さであり、また異質な制限である。

 普通のゲームにおいては、いつでもクエストをすることができるのだが、この仕様は常軌を逸していると言ってもいいほどだ。


 2つ目は、装備が固定されていてプレイヤーが公平になっている。

 やはり、このことも他のゲームでは見られない。

 何か目的があるのかそれとも、ただの優しさなのか、全くわからないがこのゲームは固定概念を壊してくる。

 まあ、フルダイブVRゲームというのが最もそうさせているのだが。


 そのウィンドウによれば、今日の昼の12時からイベントが開催される。

 今は、10時を少し越したところで、イベントまでにはまだ時間の余裕がある。

 イベントが始まる前までに、昨日の夜、疑問に思っていたことを解決しようと思った。

 今更ではあるが、一体自分はいくら所持していて、この世界での50Mは高いのかそれとも、安いのかを知るべくメニューを開いた。


 ステータス画面で、自分が今10000M持っていることがわかった。

 その数字の下には、赤い色で−50Mと表示されている。

 この数字は多分、昨日宿主が言っていた1日の宿代のことだろう。

 さらに、彼女は「宿を出るときにお代を頂戴する」と言っていたので、この赤文字は自分の所持金から引かれるに違いない金額を表している。


 続いて物価を知るために、街の市場へと出かけた。

 この街の構造は、初めの広場を中心として4本の大きい道が東西南北の四方向に伸びている。

 北の道をまっすぐいくと俺が泊まっている宿があり、南に進めば次の街へと移動することができる。

 東には森林地帯と畑が広がっていて、西には市場がある。

 なので、一度広場に行ってからマップに従い、西の道を直進して市場へとたどり着いた。


 市場と言っても、お店ばかりでなく飲食店なども出店されている。

 試しに、一番近くにある八百屋の商品を見ると、その店には現実世界には存在しない食べ物ばかり売っている。

 例えば、形はみかんに似ているのに色はリンゴのような真っ赤な色をしている。

 カゴにいっぱいに収まっているそらは、リカンという名前がつけられているらしく、値段は3Mとなっている

 明らかみかんとリンゴの組み合わせであるその果物を買って、皮をむいて口の中に放り込む。

 味は思ったよりも美味しく、甘酸っぱさが口の中に広がったことを考えると、どちらかというとみかんの方に近かった。


 他の店も見て回っても、どれも食べ物の値段は高くてもせいぜい、5Mというところだった。

 それに対して宿代は50Mと少し割高に思えるが、自分は10000M持っていたので気にすることはない。

 市場を見回っている間にイベントの開始時間まで、20分を切っていた。

 イベントの挑戦方法は、街にあるギルドにいる受け付けへ行ってから必要な手続きを終えた後、広場から出発する。


 この街〈トールタ〉には2つのギルドが建設されている。

 1つは宿屋の真正面に、もう1つは市場の入り口のところにある。

 時間が迫っているからどちらも人が溢れていそうだが、今回は現在地から近い市場の入り口にある方に行こうと思う。

 今いる八百屋は、ちょうど市場の中心に位置しているので、それほど時間はかからないはずだ。

 

 しかし、その予想は間違っていた。

 おれと同じ考えのプレイヤーが何人もいるためなのか、全く身動きを取ることができない。

 近くにいる人たちは前に進もうとしているのに、列は一向に進むことはない。

 人混みの中やっとの思いで前に進めたと思い、前方を見たら渋滞していた理由がわかった。

 あのギルドは市場に近くても必ずしも、市場にあるプレイヤーだけが利用するとは限らない。

 市場には行ってなくても、もう一つのギルドがすでにいっぱいなら、このギルドに人が流れてきても、なんら不思議はない。

 むしろ、その方が自然である。


 大変なことに、ギルドへ続く人の列の最後尾は市場より外側にある。

 つまり、俺のいるこの場所から反対に行かなければならない。

 人の群れを掻き分け、押しつぶされそうになりながらもどんどん前に進んでいく。

 人混みの中を進んで行ったせいで、近くに見えていたギルドまでが倍以上の距離があるように思った。

 人にばかり気を取られていて気がつかなかったけれど、ギルドはとても大きかった。


 赤色のレンガで壁がなされており、壁には見たことがない独特のデザインを施している旗が何枚も垂れ下がっている。

 ある旗は、青いエンブレム型の旗に三つの星が刺繍してあるものや、長方形のそれは深い緑一色に塗りつぶされている。

 その他にも5つ旗がある。

 一旦、ギルドを横切ってから列の最後尾に行く。

 初のイベントクエストに対しての興奮のせいで、タイルの道を歩く足が徐々に早くなって行く。


 列の最後尾に着いた時には、イベントクエストの開始時間をすでに10分過ぎていた。

 ギルドの出口を見ると、1人のプレイヤーが、手のひらに何かを握りながら俺の右側を横切って広場の方へと歩いて行く。

 握っていたものはわからないが、おそらく、イベントクエストに必要不可欠な何かであるはずだ。

 最初の1人が出てくるのを合図として、まるでダムの放流みたいに列に並んでいた人がどんどん減る。


 それが始まってから5分ほどで、ギルドの中に入ることができた。

 ギルドの中は相変わらずプレイヤーで溢れかえっている。

 プレイヤーの中には、列の順番について喧嘩している人がいる。

 仲裁にNPCであろう女性のギルド関係者が入っているのだが、2人は話を聞こうとしない。

 1人は右目が髪の毛で隠れており、もう1人は左頰に大きく縦に傷つけられた古傷がある。

 ギルド関係者は、なんとかその2人を説得して空席だった番台に戻った。

 彼女が番台に戻ると、また列の前進が再開された。


 やっと俺の番が回ってきた。

「イベントクエスト挑戦希望者の方ですね。そうでしたら、ここに名前を記入した後、あちらで〈テレポーター〉を受け取ってください。そうしたら、噴水のある公園で使ってください。」


 そう言われて、名前を記入してから言われるがまま次の番台へと進む。

 そこでは、〈テレポーター〉と呼ばれる六角形の物体を渡された。

 青いガラスがはめられていて、ガラスには黒い球体が埋め込まれている。

 テレポーターをしっかり右手に握りしめ、噴水に向かった。

 前に進んだとは言え短いと言えない列を横切った時、列に並ぶ人の視線が自分に集まることに気がついた。

 彼らは、彼ら自身より早くクリアするものが出てくるのではないのか、と心配しているはずだ。

 今はそんなことを気にする必要はない、なぜなら彼らも手に入れることができ、いつでも挑戦できるからだ。

 しかも、こんなに早くクリアできるプレイヤーがいるわけがない。


 噴水の前には、手にテレポーターを持っている人が何人も立っている。

 だか、なぜかイベントクエストの地へ行こうとしない。

 テレポーターの使い方は、2つ目の番台で教えてもらった。

 ガラス部分はボタンのように押し込むことができ、初めてに限って決まった言葉を言わなければいけない。

 2回目からボタンを押すことで、クエストに行ける。

 たとえ、教えてもらったとしても始めて使うのだから、そこにいる人が不安に思うのは仕方がない。

 みんなが躊躇っているところ、最初にギルドから出てきた人物が、その言葉を言った。


「シフトオン!!」


 言った瞬間に彼の体は、瞬時に消えてしまった。

 俺も彼を真似して、テレポーターの名前通り瞬間移動する。


「シフトオン!」

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