暗黒物質の出処

脳幹 まこと

魔王「えー、我のせいなの……?」


 今宵の魔王城はいつになく殺気に満ちていた。

 城内には殺戮機械キラーマシンや上級悪魔、暗黒神官の類がひしめいているので、威圧的なのは元よりなのだが、現状に比べれば天と地ほどの差である。

 殺意の源としてまず浮かぶのは、城主にあたる魔王・サーミッヒであるが、残念ながらそうではない。

 サーミッヒ直属の四人の幹部――その筆頭となるダークエルフ、黒き波のサスパロン。魔王軍の最大勢力を駆る、名実ともに魔王の右腕と呼ばれる実力者である。

 彼の持つ黒き剣「デュランダデュランデュラデュラ」の力は、あらゆる生命を萎れさせると呼ばれているが、その実態は定かではない。


 そんな彼が残りの幹部を引き連れて、主であるサーミッヒの前にやってきた訳である。そう、深い怨みの感情を抱いて。


「――サーミッヒ様、もう一度問います。本当に先程仰ったことは事実なのですね」


 愛剣の先を魔王に向けながら、銀髪褐色のエルフは問うた。それに対し、ブーメランパンツを穿いた筋骨隆々の魔王は少し沈黙したが、ゆっくりと口を開いた。


「そう、お主の申した通りだ。何の誤りもない」


 その答えにサスパロンは全身を震わせた。後ろにいた三名の幹部も同じような感じであった。

 漆黒のローブに身を包む邪悪魔導士、スタイフェ。

 筋力だけなら魔王と同じ位の単眼巨人サイクロプス、ロブテナック。

 紅一点にして露出度が高い魔物使い、レグアラ。


 魔王の間が見る見るうちにどす黒い魔力で包まれていく。

 門番をしていた魔物達は哀れにも、格の違う瘴気にてられて次々と倒れていった。辛くも生き延びた悪魔が、仲間に異常を伝える為に、下の階層へと千鳥足で降りていく。


「これで邪魔はいなくなったな」


 部下の後ろ姿を透視の類で見ていたサスパロンが、デュランダデュランデュラデュラを握りしめ、切り掛るための構えに移行した。

 後ろにいる者達も同様である。


 これだけ見ると、さながら勇者達と魔王との最終局面であるが、実際はただの仲間割れである。


「主だったもの――サーミッヒ。我らが誇りを穢したことを、死を以て償うがいい」

 

 呟くように告げるとともに、魔王の前に瞬間移動。斬撃を決めようとするも、サスパロンは障壁を瞬時に作り上げてそれを防いだ。

 残りの三名も怒涛の攻撃を行うが、魔王に何とかしてしのがれていた。

 しばらくの間、四幹部の攻撃は続いたが、全て無傷で回避されていた。逆に魔王側からの反撃は一切なかった。様子からして防御に精一杯ということはないだろうから、おそらく手を抜かれているとサスパロンは思った。

 その温情とも呼べる行為が、更に彼の癪に触れた。をしておいて、更に罪を重ねようなどと……


「貴様が無抵抗だったとしても、私は貴様を決して許さぬ!!」


 魔王は無言を貫いたままであった。


 それから、かれこれ二時間程が経ち、流石の幹部連中も体力が持たなくなってきた。RPGでいえば200ターン位経っているので、流石に疲れるのだ。STGならばとっくに自壊しているに相違ない。

 そんな状態でも健気にも剣を振り回していたサスパロンだったが、いよいよサーミッヒに剣身を手で掴まれてしまった。生命を萎れさせる能力も、どうやら格上の存在には通用しない類のものだったため、不発に終わっている。

「加工すればイケメン」のダークエルフは遂に観念し、がっくりと膝を下した。残りも同様である。


「なぜだ……なぜ……」


 悔しさを隠すことが出来ず、つい口から漏れ出た部下の言葉に対し、魔王城の長は威厳溢れる、しかしどこか温かみのある口調で諭した。


「――その剣が、暗黒たる我の肉体から創られたものだからだ。いわば我が現身うつしみ、我が子のようなもの。それ故に、どのような攻撃を行うのか、手に取るように分かるのだ」


 その言葉を聞いてもなお、幹部らの敵意が消えることはなかった。

 歯噛みする彼らを尻目に、魔王は言葉を続ける。


「サスパロンの暗黒剣だけではない。スタイフェの持つ暗黒杖、アバカアバアバアバアバカム。ロブテナックの持つ暗黒斧、トールトーハントールンマー。レグアラの持つ暗黒革鞭、エクスタシースタータシタシ。これら全てが我の所有物だったものなのだ……」


 魔王はゆっくりと手を離し、ひざまずくサスパロンの肩に手を置いた。


「愛しの部下よ。お主がその剣を使いこなしてくれたこと、我は誇りに――」


の材質、貴様のう〇こだろうがああ!!!」

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