第6話 目には歯を

 私は人を殺した。


 海に投げ出され、つかまる物は頼り無い木片のみ。

 漂いながら救助を待っていると、他の者が私の木片につかまろうとしてきた。

 小さな木片は、二人分の重さを浮かばせることは出来ない。

 私がその者の手を払いのけると、その人は海に沈んでいった。


 その沈んだ人の遺族が、今目の前に立ち、復讐の炎に包まれた目で私をにらんでいる。

 目の前の人は、静かな口調で語った。


「あなたは、私の大事な人間を殺した。あなたの行為は緊急避難と認定され、刑法で裁くことは出来ない。しかし…」


 やはり復讐の為にきたのだ。確かに人を殺したが、まだ死にたくない。


「すまなかった。でも、ああするしか方法はなかった。ああしなければ、二人共死んでいた。私を殺しても、あの人がかえってくるわけでもない。頼むから殺さないでくれ」


 目の前の人は唖然とした。


「殺しにきたのではない。漫画の読み過ぎですよ。刑法では裁けなくとも、民事訴訟は出来る。たんまり請求しますよ」

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淡々と短々 裳下徹和 @neritetsu

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