リストラされた神々

盛田雄介

第1話リストラされた神々

「お、久しぶりですな。ニホンオオカミの神」

「そういう貴方は、ドードーの神ではないですか」ここは、役目を終えた神々の憩いの場所。端がどこにあるか分からない程の広大な草原にある光輝く施設。壁やドアには細かな曲線が彫られ、施設内の装飾品や家具全ては黄金で作られている。

役目を終えた神々は毎日、尽きることの無い大量の果物や肉、酒を味わいながら、他愛のない会話を楽しんでいた。

「ここに来たと言う事は、貴方もですか」ドードーの神は疲れた様子のニホンオオカミの神に赤ワインを一杯手渡した。

「そうでなんですよ。日本人が乱獲するものだから、私も仕事が無くなりました」ニホンオオカミの神は受け取った赤ワインを一口で飲み干した。

「やはり、人類ですか。今度、人類の神に抗議しに行きましょう」

二人の神は、いつしかお互いの境遇や職についていた頃の昔話に夢中になっていた。

ドードーがオードブルのお替りを取りに行くと、また一人の神が入って来た。

「おや、また、誰かが来ましたよ」ニホンオオカミの神は疲れ切ったその姿に見覚えがあった。

「君は、洗濯板の神様ではないですか」

「お久しぶりです。とうとう私もここに来てしまいました」洗濯板の神とニホンオオカミの神は久しぶりの再会に握手を交わした。

「まさか、あんなに需要があった貴方が、ここに来るとは…」

「人類が新たに便利な洗濯器具を創造して、私の居場所は無くなりました」

「そう言えば、ここ最近も人類の発展に合わせて続々と新たな万の神々が産まれてますもんね」ドードーは落ち込む洗濯板の神にそっと赤ワインを手渡した。

「スマホの神、VRの神に、二足歩行ロボットの神。我々、神は物や生き物に宿るもの。新たな物を次々に作り出す人類は、やはり長保されるな」

「そうですよ。ここにいる他の神々も散々、人類の神へ抗議に行ったらしいですが、無駄足だったみたいです。古い神より新しい神の方が大切みたいです」

「まぁ、仕事を終えた私達は、ここで永遠とのんびり過ごしていきましょう」ドードーはニホンオオカミの神と洗濯板の神の肩を抱いた。

三人が酒を楽しみながら、互いの傷を舐めあっていると、ドードーの神が周囲が騒がしくなっていることに気づいた。

「どうしましたか。ドードーの神よ」

「入口あたりが少し騒がしいですね。どうやら、また新人が来たみたいです。しかも、かなり若手だ」

ドードーの神は騒ぎの中心を見て驚いた。なぜなら、そこには見慣れない黒髪の若き神が立っていたからだ。

どうやら、若き神の入所に他の神々も興味を示しているようだ。

ここに来る神は誰もが、長年の仕事を全うし、顔には数えきれない皺を刻み、頭には伸びきった白髪を生やしてくるのが定番であったからだ。

「おやおや。君はこの前生まれたばかりの新人くんじゃないか。もう、ここに来たのか」 

洗濯板の神は、人混みをかき分けて、若き神に赤ワインを差し出した。

「そうなんですよ。三ヵ月前に産まれたばかりなんですけど、一回使用されただけで、もう使われなくなりました」

「洗濯板の神よ。そちらの若者は何の神なんだい」見慣れない黒髪の若き神にニホンオオカミの神は他の神同様に興味津々であった。

「すみません。申し遅れました。私は新型超高性能大量殺戮大型ミサイルの神です」若き神は先輩神々に頭を下げた。

「つまり、君は新型ミサイルの神か」

「そうです。とある小国に向けて発射されただけで、それ以降は使用されなくなりました。予定より威力が大きかったみたいです」

「なるほど、君は大変強力なミサイルだったんだな」

「人間は、いつも繰り返す。新たな兵器を作っては、非人道的で、自ら使用禁止にする」

「いや、そうじゃないよ」若き新型超高性能大量殺戮大型ミサイルの神の話を遮るように入口のドアが再び開く。

「お前は…」入口に立つ一人の神に皆が注目し、その存在に目を疑った。その驚きは、若き神の登場とは比べ物にもならなかった。

「ニホンオオカミの神、ドードーの神、そして、ここにいる全ての神々よ。今まで申し訳なかった」人類の神は施設にいる神々に深々と頭を下げ、中へと歩みを進めた。

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リストラされた神々 盛田雄介 @moritayu

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