エピローグ:いとしのリノリウム
それで、その後どうなったかというと。
私たちの船の修理代はドワイトが受け持ってくれる事になった。
それどころか、仕事を受けられない間の生活も見てくれるという。
なんて親切なんだろう! って能天気に喜べたら良かったんだけどね。
後で他の人に聞いたらドワイトの奴、放射性物質を回収した上に、テロリストもちゃっかりと回収したらしい。なんでも奴らには懸賞金が掛かっていて、まるっと全部頂いたというわけだ。
私たちがあいつらをぶちのめしたのに何か釈然としないけど、あの時助けに来てくれなければ私たちは確実にデブリの仲間入りをしていたので、その手間賃として割り切ろう。
それでも手間賃が大きすぎてやっぱりムカつくけど。
今、月のドックに私たちは居る。
目の前には痛々しい姿のラビットスター号。あちこちへこんで、緊急補修材で穴が開いたところは埋められて、なんとか月まで帰って来た。
今は整備士に囲まれて溶接とか装甲の張替えとか、故障したエンジンと舵の部品取替えとか諸々をやっている。大規模な手術中って感じだ。
修理には一ヶ月くらい掛かるようで、その間は完全に仕事も出来ない。まあドワイトが面倒見てくれるというから、好意に素直に甘えるとしようかな。
しばらく休みになるしどうしようかな。また温泉に行って今度こそゆっくりするのも良い。
「アイカ、行こう」
「うん」
私とミトはドックを離れて、すぐ近くの喫茶店でちょっと休憩する。
お互いにアイスコーヒーを頼み、私はシロップとミルクをたっぷり入れる。
ミトは何も入れずにコーヒーを口にした。
「で、これからどうするの?」
ミトが私に問いかける。
「うん、実は気になってる計画があって」
「お、どんな?」
「最近、地球圏のデブリを掃除するっていう計画が持ち上がってるらしいの」
「あのウンザリするような軌道上のゴミの掃除をするって? 立案した人はだいぶ気が狂ってるのね」
「やっぱり地球に戻りたがってる人は多いみたいだし、その声に応えるってさ。で、デブリ業者にも協力を依頼してるみたい」
「ふうん」
「超大型のレーザー兵器をゴミ掃除に転用するらしいよ」
「そんな事できるならさ、私たちみたいなデブリ屋要らなくない?」
「焼き残しは出るし、細かいのを回収してくれってことでしょ。その計画が実行されるなら私はその仕事に参加したいの」
「それはいいんだけど、参加してどうするの?」
「まあ聞いてよ。ゴミ回収し終わったらその仕事に関わった企業や人を優先的に、地球に降ろしてくれるんだって。調査団として」
「地球に? もう何百年も人が降りていない環境に行くなんてぞっとしない?」
喫茶店の窓から遥か彼方の青い星が見える。
星の周囲にはうっすらとかすみがかった何かが覆っている。それらすべてがデブリだ。
「面白いじゃん。絶対に」
「そうかなぁ。ま、でもアイカがやりたいって言うなら私もついていくよ」
ミトは笑ってコーヒーをまた口にした。
面白いかどうかはともかくホントの所、まだ私は諦めていないのだ。
地球にはきっとリノリウムがあるはず。そうに違いないのだから。
いとしのリノリウム 綿貫むじな @DRtanuki
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