第26話 昇級
悪夢のような戦いから三日がすぎた。魔物が魔法を使ったという噂はすでに町中に広がっていた。
そんな中、アルゴとヒスイはなぜか呼び出しを受けた冒険者ギルドへと向かっていた。
「何かしらね。依頼ではなさそうだったから、アルゴの上級冒険者への昇格とかかしら。鬼に一対一で大怪我を与えたのが中級冒険者というのは普通ありえないしね」
「どうだろうな」
冒険者ギルドについた二人はとりあえずいつも通り二階へと向かう。呼び出されたといっても具体的に誰の元へ行けば良いのかわからないので、すっかり顔なじみになった幼い体型の受付さん、ヒノに話しかける。
「あっ、ヒスイさんにアルゴさん、おはようございます。この間はずいぶん活躍されたそうですね! 奥でギルド長がお待ちですので案内いたしますよ」
「おはようヒノちゃん。ギルド長?」
「はい! 用件は私も知らないんですが、お二人がいらっしゃればギルド長室に通すように言われています」
ヒスイはなぜか年上であるはずのヒノをちゃん付けで呼ぶ。
そんなヒノの言葉を受けて二人は首をかしげる。通常、昇級程度なら受付で済ますのみで終わるのだ。ギルド長室なんてまず行くことがない。
二人ともギルド長にはあったことがなかったため少し緊張しながらも、ポニーテールを揺らしながら歩くヒノの後に続く。
ギルド長室にはすぐにたどり着いた。古びた木の扉にギルド長室と書かれたプレートがぶら下げられただけのなんともお粗末な外観だった。
「もっと大きくて物々しい扉だったりするのかと思ったけど意外とボロいわね」
ヒスイが思ったことをそのまま口に出したが、ヒノはそれを気にも止めずにそのオンボロな扉をノックもせずにいきなり開ける。
「ギルド長、ヒスイさんとアルゴさんを連れて来ましたよ」
アルゴはこの町の冒険者ギルドの一番偉い人が相手なのに扉にノックもしないでいいのかと驚いたが、開いた扉の先をみてさらに驚くことになる。
「「ハイルさん!?」」
アルゴとヒスイが息ぴったりに声をあげた。なんと扉の中から現れたのはハイルさんだったのだ。
「おー久しぶりだの。さぁ入れ入れ」
ハイルの催促に二人は挨拶をしながらも恐る恐る部屋に入る。
部屋に入ると押し込むように置かれたソファに座るよう促すハイルの指示に従った。
「ハイルさんはギルド長だったんですか? 」
「おーまぁ一応そうなっておるの」
「私ハイルさんが受付に立っているのもよく見かけるんですけど……」
「ギルド長でも受付もするし、夜の番もするぞ。お茶だってこうやって自分で用意するし、少し書類仕事が多いだけでそんなたいそうな肩書きじゃないさ」
アルゴとヒスイはソファに座ったまま、対面に同じく座ってお茶の準備をしているハイルに問いかけた。
「さぁ、どうぞ。冬なのに暖かい飲み物ではないが、湯を沸かすのは面倒なので勘弁してくれ」
「「ありがとうございます」」
お茶を目の前のテーブルの上に差し出したハイルに二人は恐縮しながらも礼を言う。
「それで私たちが呼ばれたのは用件はなんなのでしょうか?」
「そんなにかしこまらなくても良いぞ。世間話は後にして、率直に言うと二人の昇級についてだな」
「昇級? ではやはりアルゴも上級冒険者になるということですか?」
「いや違うぞヒスイの嬢ちゃん。二人の昇級だ。ギルドでは今回の調査で報告された二人の実力からお主らを特級冒険者に昇級させることに決まった」
「「特急冒険者?」」
初めて聞く言葉に二人は声を揃えて聞き返した。
「簡単に言うと上級冒険者の上の最上級冒険者だ。大変な依頼が回って来るだけで扱いは基本的に上級冒険者と同じじゃな。国からの依頼も多いので存在が秘匿されておるから知らんのも無理はない。ギルドでもギルド長以上の役職のものにしか知らされておらん。ギルドカードにも特急ではなく上級とかかれるしな」
「上級の上があったんですね。でもまたなんでそんな話が俺たちに来たんですか? この間は青鬼を倒したと行ってもトチス村にでた赤鬼よりはかなり弱かったですよ」
「そうね。赤鬼だと勝てる気がしないわ」
「お主らの価値観が少しおかしいが……色が赤だろうと青だろうと鬼は鬼じゃ。一番弱い個体で上級冒険者を何人も集めて犠牲を出しながらもようやく勝てるかどうかと言ったところだ。鬼は過去に確認された数が少ないがその資料から判断するにその赤鬼は過去最強レベルと判断して良いだろう。強力な火の魔術を受けてビクともしない個体は過去の記録にはいなかった」
ハイルが二人の意見に驚きを通り越して呆れるように答えた。
「あの赤鬼はそんなに強かったのね。よく生き残れたわね私たち。と言うよりもよく生きてたわねアルゴ」
「あの時はさすがに死んだかと思ったな」
「まったく規格外な二人じゃの。以前よりも仲も深まっているようで何よりだ。いいコンビになりそうとは思っておったが鬼を二人で倒すのだから驚いたぞ」
「それはそうと私たち二人とも冒険者はおまけ程度の兼業冒険者なのだけどそれは大丈夫なんですか?」
「おまけで鬼を倒されたらたまったもんじゃないがの。ヒスイの嬢ちゃんが薬師でアルゴが農家だったかな。調べはついているから問題ないぞ。特級冒険者並びに特級の依頼については守秘義務を課されるが依頼が来ても忙しいなら断れるから大丈夫だ」
ハイルは手を振りながらあっけらかんと答える。
「それなら良かった。俺はもうしばらくしたら田舎に帰ることになるからな。国からの依頼だからと断れなかったら少し困る」
「あら、俺たちは、でしょう。私もそこに帰るんだから」
「……」
ヒスイの言葉にアルゴは沈黙を貫いた。人工臓器のことがあるので他に道はないのだがどうも落ち着かない。
「仲がいいのう。そうだ、前回の調査について一つわかったことがあるので関わりの深いお主らに教えといてやろう。どうやら魔物たちは人間の死体を集めていたようだな」
「人の死体を?」
「ああ。他の調査隊からの目撃報告があった。今まで村から人が綺麗さっぱり消えていたことにも説明がつくから間違い無いと思っている。お主の隊でも魔物の足跡とともに車輪の跡が見つかっているがこれも村の人を運んだものだろう。ゴブリンがほとんど逃げたこととも関係があると見ている」
二人は顔をゆがめて悲痛な表情をするが、それとともに当然の疑問を抱く。
「でも人の死体なんか何に使うんでしょう?」
「それが全くわからん。魔物の統率がしっかり取れていたり、魔法を使ったりとわからんことだらけじゃ。お主らも十分に気をつけるのだぞ」
その後もしばらく話を続けたがこれといって目ぼしい話題はなく、長居しても邪魔だろうと考えた二人はそそくさとギルド長室から退散するのだった。
強面冒険者と少女魔術師 雷華 @raikauemiya
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