クリスマスイブの夜は甘くない
無月弟(無月蒼)
第1話
サンタクロースの正体を知ったのはいつのことだろう。
多分小学校低学年の頃だったと思う。クリスマスの近づいた十二月のその日、俺は自宅でテレビを見ていた。
テレビ画面には何人かの芸能人が映っていて、その中の一人。W田アキ子さんがこう言ったのだ。
『サンタなんているわけねーだろ!』
前後にどんな会話があったのか、正確な所は覚えていない。だけどサンタクロースの正体は父で、子供が寝ている間にこっそりと枕元にプレゼントを置いているのだと言っていたことは覚えている。
かくしてそのW田アキ子という男によって夢を壊された俺は、その事を寂しく思ったわけだ。その年のクリスマスは『サンタさん、来ると良いね』と言って寝かしつける両親を冷めた目で見ていたっけ。
あんな寂しいクリスマスは二度とこない。そう思っていたけど。
「寂しいなあ」
寒空の下会社に向かっていた俺は、ふとそんな声を漏らしてしまっていた。
中学、高校と順調に学歴を重ね、社会人になった俺。
だけど今年の俺は、あのサンタクロースの正体を知った冬に勝るとも劣らない、寂しいクリスマスを迎えようとしていた。
彼女にフラれた?いいや違う。彼女なんて元々いやしない。けど、仲の良い友達はいた。
毎年クリスマスには暇な野郎どもが集まってバカ騒ぎをするのが、俺の仲間内では恒例となっていた。
なに、十分寂しいって?バカ言っちゃいけない。
確かにそれはイケてないクリスマスの過ごし方だけど、それなりに楽しかったぞ。皆でケーキを切り分けて、下らない話をしてさ。
だけど今年の俺は、そんなバカな集まりに参加する事すら叶わなかった。
あれは十二月の始めのことだった。派遣社員だった俺は会社都合により地元を離れ、遠く離れた場所へ転勤となってしまったのだ。
簡単に帰れる距離では無かった。まあ盆と正月くらいは帰るだろうけど。
だからこそ正月直前のクリスマスに、わざわざ野郎だらけの集まりに顔を出すためだけに帰るというのは無理があった。
この新しい土地に、知人は一人もいない。いるとすれば会社の同僚くらいだけれど、一緒にクリスマスを過ごす仲かというとそうでもない。まだ来たばかりで、馴染んでないしな。とすると今年は、クリぼっち確定か?
そこまで考えた時、つい思ってしまったのである。寂しいなあ、と。
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