第2話

 一人でクリスマスを過ごすのは確かに寂しい。とはいえ嘆いていてもどうしようもない。

 どうせいつもと何ら変わりない一日があるだけだ。意識さえしなければ寂しく思うことも無いさ。


 そんな風に考えているうちに、会社へとつく。

 仕事開始までまだ時間があったから、俺はタイムカードを押した後休憩室で適当に時間を潰すことにする。

 そしてそこで、事件は起こった。



「お前、ケーキどれが良い?」


 休憩室に入ると、先に来ていた一人の先輩が唐突にそう聞いてきた。

 ケーキ?いったい何の事だろう?


「ああ、お前知らないのか。うちの職場では従業員は全員、クリスマスにはケーキをワンホール丸ごともらえるんだよ。それで、どのケーキが良いか聞いて回っているんだ」


 そう言って先輩はケーキのカタログを見せてくる。そこには何種類ものケーキの写真が載っていて、見ているだけでよだれが出そうなくらい美味しそうだ。


「えっ?この中から好きなのを選べるんですか?」

「ああ。どれを選んでも良いぞ」


 俺は目と耳を疑った。話を聞く限り三角にカットされたケーキではなく、円型のデカいケーキが貰えるということだ。貰って良いのか、一個丸ごと⁉


 いったん落ち着いて考えてみる。

 クリスマスにケーキを貰える。このケーキは普通、切り分けて大勢で食べるようなものだ。だけど今の俺には、一緒にケーキを食べるような友達はいない。会社の同僚に声をかけたところで、彼等も全員会社からケーキを貰うだろうから、一緒にケーキを食べようとはならないだろう。という事は…


(ケーキワンホール、独り占めできるってことじゃないか!)


 幼い日の記憶が蘇る。

 誕生日やクリスマス、友達や両親と一緒に食べたケーキは美味しかったけど、同時にこうも思っていたっけ。いつか一人で丸ごと、このケーキを食べてみたいって。


 その夢が、思わぬ形で叶うのだ。

 俺は差し出されたカタログから、一つを選んで先輩に告げる。


「この生クリームのケーキが良いです」

「これだな。よし分かった、当日は楽しみにしていろよ」


 もちろんです!

 寂しくなると思っていたクリスマスが、俄然楽しみになってきた。どうやら今年のクリスマスは、甘い夜を過ごせそうだ。

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