第3話

 会社都合で地元を離れ、新しい職場で働き始めてから一年が経とうとしていた。

 

 カレンダーは十二月。街は綺麗なイルミネーションに彩られ、いたるところでクリスマスソングが流れている。

 それらを見て聞いていると、思い出されるのは去年のクリスマス。会社からの思わぬケーキのプレゼントに大喜びした俺は、夢だったケーキの一人食いをしたっけ。

 あれからもう一年も経つのか。あれは、よかったなあ。


 大の大人が何ケーキに夢中になってるんだと思う奴もいるだろう。だけどあのケーキのプレゼントを喜んだのは俺だけでは無かった。

 今ではすっかり馴染んだ職場の同僚たちと一緒に、去年貰ったケーキについて語る。


「俺、ここに来たばかりで色々不安だったけど、あのケーキのおかげで前向きになれたんだ」

「まさかあんなものが貰えるなんて思わなかったよなあ」

「俺は一人で全部食った。子供の頃からの夢が叶ったよ」

「実は俺、今の仕事合わないから会社辞めようと思ているんだ。ここ、ボーナスも無いしな。けどせめて、ボーナスが無くてもケーキを貰うまでは辞められないと思って残ってる」


 うちの男共はそろってこんなのばかりである。

 

 いつの間にか休憩室にはケーキのカタログが置かれていて、休憩時間になると同僚たちと一緒にどれが良いか吟味するようになっていた。

 去年は生クリームのケーキを貰ったけど、今年は何を貰おうか。チョコレートにしようか、それともまた王道の生クリームか。考えただけでワクワクしてくる。


「うちにはカミさんと子供がいるけど、こりゃあ店でケーキを予約しなくても良いな。タダで手に入るんなら」


 最近入ってきた新人も、タダでケーキが貰えると聞いて上機嫌だ。

 どのケーキが良いか聞かれる前に、しっかり選んでおかないと。俺達は休憩時間の旅にカタログと睨めっこし、真剣になって選んでいた。


 ところが、どうも妙である。

 去年は確か十二月の始め頃に、どれが良いか聞かれていた。だけど今年は、十二月を半分過ぎたというのに、まだ聞かれてない。

 おいおい、ケーキ屋だって忙しいんだから。早く予約しないとダメだろ。


 しかしそれから更に一日達、二日経ってもどのケーキが良いか聞かれることは無かった。そのかわり、とんでもない事を聞かされる事となった。

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