第4話

 クリスマスまであと数日と迫った頃。皆で休憩室で休んでいる所に、同僚の一人が血相を変えて飛び込んできた。


「おい!クリスマスケーキ、今年から貰えるのは正社員だけになったらしいぞ!俺たち派遣社員は貰えないそうだ!」

「「「何だって⁉」」」


 その場にいた全員が揃って耳を疑った。

 そう、俺達は全員派遣社員。さっき彼が言っていたことが本当なら、今年はケーキを貰う権利が無いということになる。


「ふざけるな!」


 悲痛な叫びが上がる。


「ケーキを貰える事だけが楽しみで、今日まで頑張ってきたのに」

「タダでもらえるって聞いてたから、ケーキの注文なんてしてないぞ。今からじゃ早期予約の値引きも適応されないだろうし、どうしてくれるんだ!」

「ぬか喜びさせるだなんて酷すぎる!」

「ボーナスが無いのは諦めていたけど、ケーキまで無いとは聞いてなかったぞ!ケーキがあるから、辞めずに続けてきたのに!」


 突如突き付けられた現実を受け入れられず、各々が怒りと悲しみを露わにする。だけどもうどうする事もできないだろう。


「ストでも起こすか?」


 冗談なのか本気なのか。一人がそう言ったけど、さすがにそれは現実的では無い。労働時間が長いとか給与が少ないとかならともかく、ケーキを貰えないからといってストを起しても、たぶん何にもならないだろう。


 かくして俺達はお通夜のような空気のまま、クリスマスイヴを迎える事となった。

 そして怨めしい事に、正社員の人達はみんなちゃっかりケーキを貰っているのだ。


「なあ、正社員の奴らが一様に四角い箱を抱えているぞ」

「あれは『けえき』と言うものらしいぞ。クリスマスにはそんな甘くておいしいお菓子を貰えるそうだ」

「そういやあったな、そんな都市伝説」


 まるでサンタを待つ子供のような気持ちでケーキを楽しみにしていた俺達は、ケーキを持ち帰る奴らを見ながらやさぐれた気持ちになっていた。


 今日はイヴで、明日はクリスマス。だけどケーキは……無い。




 どうやら今年のクリスマスイヴの夜は、甘くは無いようだ。

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