プロローグ2

あ、やべっ和樹に渡す物があったんだった」


 俺……山本晴信は会社の最寄り駅でふと思い出すと、和樹を追いかけるために駅を出て、のんびりと和樹の家に向かった。スマホに連絡をいれるが反応はない。

 和樹の家への道のりは駅周辺とはうって変わり人通りが少なくなるところだった。俺も何度も通ったことがある道だ。

 特に何も変化はなく、無事に和樹の家にたどり着いた。

 呼び出しベルを押しても反応はない。もう寝ているのかと思い、郵便受けに手を伸ばした。

 和樹は鍵を良く無くすので家の郵便受けの所に鍵を置くようにしているらしい。だから知っている俺はいつでも入ることができる。

 正直、俺でも無用心だと思う。しかし、もうすでに和樹が家に帰っているなら郵便受けに鍵を置く必要はないはずだ。


 ……だがそこには鍵はあった。


 鍵を取りだし、家の鍵を開けるとまず家の中を探したが和樹はいない。

 不思議に思い、再び連絡をいれるが反応はない。和樹のことだし、どうせふらふらとどっかに行ったのだろう。いつものことだ。

 再びいないのを確認すると、渡したかったものを玄関に置き、鍵を閉め元の場所に戻した。


 ……次の日、和樹は仕事場にいかなったらしい。和樹とは電話一本も繋がらず、実家にも帰ってないらしい。

 次の日も仕事場に来ないので不審に思った秘書さんが警察に電話を入れて捜査してもらった。

 だがここ5日間ぐらいの和樹の携帯データ、GPS情報、仕事のデータなどがすっぽりと抜け落ちていた。監視カメラもどこを当たっても写ってないという状況で捜査は難航した。

 事件は連日報道された。和樹は成り上がりの地方知事としてそこそこ有名であり、若者に人気だったので多くの人が捜索に協力したが一切見つかる気配はなく……


 ーー大橋和樹失踪事件は捜査開始五日目にして迷宮入りをしたーー


 あの日は和樹の誕生日だった。




               ◇ ◇ ◇ ◇



 俺は、数日後和樹の秘書であった笠原百花と会うことになった。


「……あのっ、最後に和樹と会ってたのは晴信なんだよね?」

「ああ、たぶんな」


 彼女は俺と和樹の同級生だ。中学は同じで高校でみんな違う所に行ったが、大学でまた同じというまさに腐れ縁の関係だった。和樹と桃香においては職場も同じという奇跡もおこっていた。


 桃香は和樹に好意を抱いているらしい。最も、十数年も一緒にいながら、鈍感くそ煩悩野郎の和樹は気づいていないが。


「そう……」

「俺も別れてからすぐ追いかけたんだけどな。どこにもいなくてよ」

「和樹は無事なのかな……」

「ああ、きっとあいつならどう足掻いてでも生きているはずだ」

「そう……だね」


 普段は元気な彼女だが今日はそのいつもの元気さがない。実質和樹が戻ってくる確率はとても少ない。警察もほぼ諦めているし、若者の捜索などあたる訳もなく、もし誘拐だとしても、数日分のデータを抜き取るほどの徹底ぶり。

 こんな相手に勝てる訳がない。セキュリティが丈夫な仕事場のPCまでもデータがないらしいし自分から隠れたにしてもそれを和樹がするメリットがない。


「和樹は昔っから俺たちに迷惑かけすぎだよな」

「ええ、そうねほんと昔からなんも変わってない」

「なぁ、賭けてみないか?和樹が帰って来るかどうかで……俺は帰って来るに財布のなか全部で」

「私も、帰って来るに……私の全て、全部を」

「おおっ強気だねぇ」

「絶対に帰ってくるって信じてるから」


 彼女の流した涙は目の前の人でも気づくことなく、地面に落ちればすぐ消える新雪のようにそっと落ちすっと消えた。


               ◇ ◇ ◇ ◇



目を覚ますとそこは見渡す限りの草原だった。辺りを見渡し俺はこう呟いた。



「ここは……どこ、だ?」と……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地方知事の税金無双 @otl816

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ