地方知事の税金無双
@otl816
プロローグ1
俺、大橋和樹は今田舎の地方知事をやっている。
今は特に夢もない。ただ淡々と仕事をし、時に遊びの繰り返し。お金は普通のサラリーマンよりは高めにもらっているのだが、そんなにお金を使う機会もなく、ただ貯まっているだけだ。住んでいる所も普通のマンション。結婚はしていないし勿論子どももいない。だが、いまの生活に特に不満はない。
これは少し前のの俺だ。今の俺は最後に一言つけな
ければならない。
「ーーただ、一つのことを除いてはーー」と
知事と言っても本来の知事さんが一時的に不在になった時に、何故だか知らんが当時公務員だった俺に、白羽の矢が立ったのだ。(本来あり得ないことだが俺俺が運良く手柄をたて過ぎていたため)
俺の母親は若くして病気だった。やがて症状は悪化し手術が必要になるが、高すぎる手術費用は全財産合わせてギリギリだった。
それからの生活は苦しいものだった。何をやろうにもお金が足りない。しかも仕事もうまくいかない。……
そして母親の病気の再発。
無論手術費用は足りるわけもなく、ついには借金を抱えてしまった。
その極限状態の精神で必死の思いで解決法を探し、ついに……税金の不正利用に手をつけてしまった。
立派な犯罪行為だった。
しかし、幸か不幸かばれることなく、常に周りの視線を気にしながら生きていた。
辛かった。ここまで辛いとは思わなかった。罪悪感に押し潰されそうになりながら、今日も生きていた俺の物語はまだ始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「あーあ、結局今日もなんにも決まんなかったー」
「和樹、そう落ち込むなって」
居酒屋コノハ、普段から仕事帰りの客や、常連客などで賑わいを見せる店。店内で音が途切れることはなく、時より酔っぱらいが大声で愚痴を叫ぶ程度の、少し賑やか過ぎる店だ。
「仕方ねぇだろ?今月の予算も何に使うかきまんねぇしよー」
「はいはい、俺たちのためにも良い税金の使い道考えようね」
「税金て言ったってよぉーこの辺じゃ使い道なんてないし、余らせても駄目だし、勝手に使ったら不正利用って、やってられっかよぉぉぉ!!」
「まぁまぁ落ち着けって……ん?あ、もう良い時間だし、俺そろそろ帰るわ」
「おけー、じゃあ俺も帰りますかね」
「お会計2451円になりまーす!!」
「俺、払うわ……税金で」
「最後の方は聞こえなかった。うん」
「ありがとうございました」「またいらっしゃいませー」
こういう接客業は、俺は死んでも無理だ。作り笑いなんかできる訳がない。最も、作り笑いしていたのかもわからないが。
帰り道は駅まではだいぶ賑やかだ。ちなみに晴信はその駅を使って帰る。俺は歩きだ。
「うげっ、もう金ねぇや」
「地下鉄代もねぇのか?」
「かろうじては……」
「はぁ、しゃあねぇな、貸しといてやるよ」
「……税金じゃねぇよな?」
「………………」
「税金かよ!!」
仕方ないだろ?使い道ないんだし、たくさんあるし、減るもんじゃないし(減ります)
「えー、だって使い道ないから良いじゃん」
「駄目だろ?税金はみんなのために使おうぜ?」
「俺は、いまにも金が尽きそうな、一市民のためにお金を使うだけなのだよ晴信君」
「ふむふむそれならいいのか?……っていいわけないだろ!!」
「ちぇっ税金なんて余ってるだけなのに」
「余ってるだけってことはないだろ?……おっと、俺ここの駅から帰るわ、じゃあな」
「おーう、またなー」
さっきまでとはうって変わり、人通りが少なくなってきた。『サ○エさん』とかで良く見るような感じの夜道を一人で歩く。晴信が居なくなってから家に着くまでの数分間は特になにもなく、少し酔っ払ったおっさんとすれ違うだけのはずだった。
「やあやあ、ちょっと良いかね?そこの若造よ」
若造って俺のことじゃないよな?とか思いながら、無視して歩いていく。だって俺おっさんだし。
「ほら、そこのスーツのおぬしじゃ」
ついに無視しきれなくなり辺りを見渡すと、音の発生源と思われる、日本では珍しい、ローブのようなもの(俺が思うにファンタジー世界の魔法使いに近い)で全身を包んだ人がいた。
ここで声をかけて来る人はだいたいめんどくさい奴だ。本来ならスルーして逃げるが、もし相手が警察だったらめんどくさいことになるし、今調べられたら不味い。
ばれてないことを祈る……
「お、俺のことですか?」
「そう、おぬしじゃ」
「なにか御用ですか?」
警戒しながら言い放つが、
「まあまあ、そんな警戒なさるな……ほれ」
老人が呟いた瞬間、瞬く間にただの夜道にラーメンの屋台が現れた。一瞬の出来事に頭が追い付かない。
「そこの屋台で一杯どうじゃ?」
「いやいやいや、いまいきなり現れたよな!?」
……どうやら俺はここから敬語を使うのを忘れたようだ。
「なんのことじゃ?最初からそこにあったぞ。おぬし目が悪いのか?」
「目は悪くないと思うんだけど、ってかやっぱりいきなり出てきたって!」
「いや、最初からあったぞ、何故なら、あれはわしの店だからの」
「そ、そうなのか?じゃあなんでそんな怪しいローブ着てるんだよ?」
「寒いからじゃ」
「紛らわしいわ!!」
とか言いながら、老人に半ば強引に屋台に引きずり込まれる。物凄い接客術を見た気がする。
屋台の中はいたって普通で四人ほどが座れる席が並んでる。名前は『ラーメン鍵山』だ。店主は鍵山さんと言うのだろうか?とりあえず、警察の方じゃ無さそうだ。
メニューはオーソドックスな塩、醤油、味噌だった。どれも価格は安めになっている。
いつのまにかローブのようなものを脱いだ老人(男だったようだ)に「味噌の麺固めで」と注文すると、ものの数分でラーメンが出てきた。普通にうまい。
俺がラーメンを黙々と食べ進めていると……
「おぬし、税金を不正利用しておるじゃろ?」
ブフゥーッ!!ゲホゲホッ
思わず吹き出したが、なぜばれた!?
「やはりそのようじゃの」
「おい、おい、そ、そんなこと俺はま、まったく知らないぞ!」
「わしに嘘は通用せんぞ」
「う、うぅ……」
「もう一年も嘘をつき続けているようじゃが、どうやっておるのじゃ?」
選択肢は3つ
1、シラを切り続ける。
2、正直に話す。
3、逃げる。
相手が変装した警察(今はほとんど警察はそんなことはしない)だったのなら2と3はかなり不味い。だが、なぜかこの老人なら話しても大丈夫な気がする。
◇ ◇ ◇ ◇
……気がつけば催眠にでもかかったようにペラペラと話してしまったようだ。
一年前から、税金を不正に溜め込んでいたこと。
母親の病気のこと。
違法な抜け道を使っていたこと。
ばれないように周囲に嘘をつき続けていたこと。
自分だって好きで溜め込んでいる訳ではないこと。
友達にも、まるで税金の使い道が無さすぎて困ってるという風に見せかけた演技をしていたことなど。
人に聞かれたら即行牢屋行きになるような話をペラペラと話していたらしい
悔しくて、情けなくて、もうどうしようもなくて、相談できる人も居なくて、一人で抱えこんでいたことを、全て老人に話した……らしい。
話していた記憶はほとんどないが、全てを老人に話していた気がする。
しばらくの間ずっと沈黙が流れていた。俺の他にも客が居るわけではなかった。少なからず人が通るはずだが周囲も俺と老人だけが存在するかのように静かだった。
「そうかそうか、大変だったのう」
「…………」
「お主に一つ提案があるのじゃが」
「……なんですか?」
「異世界に行く気はないかの?」
「…………は?」
「異世界に行く気はないかの?」
「……マジ……ですか?」
明日耳鼻科に行こうと決心した。が、
「ああ、マジじゃよ」
「年取っててもマジって言うんだな……じゃなくて、本当に異世界に行けるのか?」
正直、今抱えてるものから逃げ出せればそれで良かった。どこへでもいい。死んでも良いと思うほどだった。だから嘘でもいい。だから少しの希望に賭けてみよう。そう思った。
「ここで嘘つく必要はわしにはない」
「そうか……じゃあ信じてみるよ」
「よしわかった。じゃあ、この鏡をお主に渡そう」
店の奥からどこから出したんだよと思わず突っ込んでしまうほど大きな、俺がギリギリ持ち運べる程度の鏡が出てきた。
「なんだ?その鏡?」
「これを通って異世界に行くのじゃ、ほれっ」
老人が投げた鏡が俺に向かって飛んできて、俺にぶつかる瞬間ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここは……どこ、だ?」
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