『美味礼賛』
広島産牡蠣、始めました。
ファミレスに幟が立っていた。
「牡蠣フライ、食べたいのぅ」
ファミレスの牡蠣フライなぞ。
私はそう思ったが、祖母の「食べたい」に黙って頷いた。
祖母は、末期がんだった。
その日も二時間以上に及んだ病院の診察の帰り道。
肝臓転移もあって食欲が落ちた祖母が何かを食べたがるのは当時既に珍しかった。
勝手を知らない祖母と共にメニューを選び、注文する。
いかにも冷凍な牡蠣フライを食べた祖母が笑った。
「美味いのぉ」
喜ぶ姿が嬉しくて、切なくて。
命のカウントダウンに入っている祖母を、一つでも喜ばせてあげられた事が誇らしかった。
今年ももうすぐ幟が立つ。それを見るたび私は思う。
食べる喜びは、生きる喜びだ。
コトバランドスケープ300(300字掌編集) 歌峰由子 @althlod
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