変わる心も変わらぬ心も、誰かの心を巻き込んでいく―

『彼の言葉が胸を刺した』
この言葉通り、心がどんどん傷だらけになっていきます。でもそれは主人公だけでなく、主人公を傷付けた彼も、秘めた想いを持つ人たちも、それぞれがそれぞれに傷付いていきます。誰かと生きて行く限り、その人の心は知らぬ間に誰かに影響を与えているのだと考えさせられました。
『秘めた想い』を匂わせる描写も上手く、傷付いていく絶望の日々の中に見える希望や妥協もまた見事に描かれています。登場人物たちの心に呼応するように、読者の心も痛みや幸せを感じることのできる作品です。
20代を共に過ごしてきた恋人たち。ずっと当たり前に続くと思っていた日々は、浜辺につくった砂の城のように、濡れたら少しずつ崩れていく。
好きな人が変わること、好きな人が増えること、好きな人が変わらないこと・・・別々なように思えるそれらが全て真面目さ故のものだったなら、幸せはどこに見出だすべきか―
主人公が作品の途中で見せた『妥協』を現実に生きる人も多いはず。作品終盤のように、自分と相手に最後まで向き合う人も多いはず。登場人物がそれぞれに違う性格なのを見事に描いているので、誰に視点を合わせるかでこの作品は大きく表情を変えます。
これでもかというくらい、リアルな心情を終始描かれているので、感情移入して読むのが苦でない方は是非読んで欲しいです。
処女作と思えない表現力。作品はもちろん、作者のファンになりました。

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