心を濁して
新成 成之
上書き
とある事を意識し始める途端に、それが面倒な行為に感じられてしまうことはないだろうか。
例えば「瞬き」。普段なら無意識でそれを行っているはずだ。でも今「瞬き」を意識してしまった貴方は「瞬き」を意識的に行ってはいないだろうか。意識から逃れようと考えれば考えるほど溝にはまっていく。それから逃れるには、他のことを考える他ない。
では次に「呼吸」何てどうだろう。息を吸って、吐いて。それが口からなのか、鼻からなのか。普段貴方はそんな事を考えていますか。恐らく考えもしないでしょう。何故ならそれはそういうもので、勝手に起きているからと思っているからに違いない。ただその勝手に起きている事を意識し始めると自ら抜け出せない溝に嵌っていってしまうという事もご存知なのだろう。
そんな時やる事は決まって思考の上書きだ。これを考えないようにする為に他の事を考えてその事を忘れる。一見当たり前のように思え、簡単に聞こえるが、そうでもないのが現実だ。ここで貴方が今まで経験した「思い出したくもない事」を思い出してみて欲しい。それを思い出すという事は大変辛いことだろう。しかし、もしその事を思い出してしまったなら、貴方はそれをいち早く忘れたいと思うはずだ。そこでそれを忘れる為に他の事を怒涛の勢いで考えてみて欲しい。どうだろう。上手く他の事を考えられても、嫌な思い出はなかなか消えてはくれないだろう。寧ろ、脳内で乱雑に展開された思考を上書きするかの如く、それが現れたりしないだろうか。パソコンのデスクトップで、とあるウィンドウを隠す為に展開したウィンドウを乗り越えて姿を見せる初めのウィンドウ、それが貴方の思い出したくない事に似ていないだろうか。
こんな考え方を日常からしている人間からすると、思考の上書きというのは頭の中で異常なまでのウィンドウを開くのと何ら変らなく、それが自然と行えるようになってしまう。見たくないもの、考えたくないものを大量の他のもので隠してしまう。謂わば、自分でさえもそれを見えなくしてしまうという何ともご都合主義に似た考え方になってしまうのである。
それが出来るなら生活に苦労しないのではないか。そんな事を考える方もいらっしゃると思うが、寧ろその逆で、苦労しかないとも言える。何故なら、隠すのが思考までなら良いが、自分の欲を隠してしまう場合もある。自分が何をしたいのか、どうされたいのか。それすらも見えなくしてしまう。何故なら自分の頭に過ぎること全てを他で書き消してしまうからだ。見ないふり、見ないふり、そうやって避けてきた末路がこれだ。
ここまで付き合ってくれた貴方に教えて欲しい。僕はどうしたらいい。欲が見えないから分からないのだ。だから教えて欲しい、僕はこれからどうすればいい。
心を濁して 新成 成之 @viyon0613
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