第二話…「弟子の属性とその特性」
弟子の意識の向上に、自分まで感化された…ような気がする。
俺は、まだまだ発展途上だ…、まだできる事があるはず…、ソレは常々思っていた事ではあるが、いつも以上に頭を過るようになった。
弟子の訓練する姿だけではなく、俺自身の意識の変化は、オーロヴェストでの出来事に由来する部分もある様に思う。
自分は決して最高の魔法使いである訳ではない。
魔法の腕が良いとは自負しているものの、それでも、上には上がいるし、魔法があれば何でもできる…万能である…と驕るつもりはない。
現に、俺は子供一人救う事ができなかった。
彼の最後は、アレはアレで、ある意味救いを得ているのかもしれないが、もっといい方向に持って行けたのではないか…と思うのは普通の事だろう。
---[01]---
ジョーゼの事を優先し、アイツの事ばかりに目を向けていた自分としては、何か正解だったのか、その答えを出す事はできそうにない。
言い訳ならいくらでも吐けるが、そんな事をした所で、空しくなるだけだ。
アレンとセス、2人の訓練を見た次は、一番弟子であるジョーゼ、そして残りのシオとフォーの訓練を見る。
ジョーゼはともかく、シオとフォーは前に出て剣を振るうという事に、あまり適していないように思う…という話を、譲さんから聞いた事で、より伸びしろのある部分、もしくはその可能性がある部分を伸ばす形となった。
前に出ないのなら、後方支援だ。
オーロヴェストで行った廃坑、そこでこいつらはヴィーツィオと遭遇した訳だが、その時は前にセスとアレンが立ち、後ろから援護する形になっていたのも、今の訓練の流れの理由にもなる。
---[02]---
フォーことフォルトゥーナ・クリョシタは、見た目…よくわからんお面を付けている点…から、前に出したくない…という結論は、俺の中でも出ている。
そもそも本人が前に出る事を望んでいないから、下手に出して汚されるよりかは、本人がやりたいという部分の伸びしろを調べるのが、得策と言えるだろう。
もともと独学で魔法を勉強していたらしく、ジョーゼを除いて4人の弟子の中で、一番魔法ないしは魔力に対しての理解力が高い、といっても知識があるだけで魔法の実戦は杖魔法が基本で、実際は酷い言い方をするのなら、その実力は毛が生えた程度だ。
セスとアレンが前衛、シオとフォーが後衛、その隊列になり、より本格的に魔法を訓練しようという事で、全員の魔力属性が何かを調べたりもした。
---[03]---
俺とジョーゼは、「火」の魔力属性であり、他の4人は…
アレンが「風」。
シオが「土」。
セスが「火」。
フォーが「影」。
…という事がわかった。
属性がわかれば、個々の魔法に対する得意がわかりやすくなる。
俺、ジョーゼ、そして新しく加わったセス、その属性たる火は、わかりやすく言えば火を扱う魔法が得意だ。
もちろん同じ魔法を、別属性の人間が使う事も出来るが、魔力消費や制御、つまりは扱いやすさが、その属性に適しているかどうかで大きく変わってくる。
---[04]---
火は何かを燃やす、温める、そう言った魔法が得意で、その得意を極端に…そして極限まで高めた魔法が、俺が故郷であるプセロアで戦ったドラゴンに放った炎の一閃。
アレは火の魔力の熱する事、そして燃やす事、それらを極限まで、自分に出来る限界まで極端なまでに高めた結果の魔法だ。
アレンの風なら、最もよく使われる部分で言えば、「風を吹かせる事」、「切る事」…とかだ。
風を吹かせると言っても、ソレを極限まで高めれば、木々だって薙ぎ倒して森を更地にしかねない突風を吹かせる事だって出来るだろう。
切る事…なんて、もっと単純だ…、そのまんま、切る事を極限まで高めた時、巨大な大岩だってバターを切る様に簡単に切れるようになるかもしれない。
---[05]---
村での風属性の魔法使いの中では、モノに「浮力」を持たせる事、それを極めようとしている者もいた…、それを極めた先には、人でありながら、魔法で空を飛ぶ事だって夢じゃないかもしれないし、どんなに重いものでも浮かせる事が出来るかも。
風は火と違って、戦闘面だけにとどまらず、生活面でも大いに活躍できる属性と言える。
シオの土は、見映えしない部分もあるが、度肝を抜きそうになる程に、派手な力でもある。
土の属性で一番使われる力と言えば「硬化」だろう。
モノを硬くする事、言葉そのままではあるが、ソレを突き詰めれば、そこから得られるモノは最高の防御だ。
---[06]---
剣を突き立てられたとしても、体を傷つける事はないだろうし、そもそも怪我をしなくなる…、それに怪我だけじゃない、硬化させる…という意味を、丈夫にする…と捉える事ができれば、体への強化魔法の反動を抑える事も出来るだろうし、村の人間の話じゃ、毒といった体に影響するモノの効果すら抑える事もできるとか。
武具や、それ以外なら家とかを硬くすれば、破損をさせないようにする事だって出来るだろう。
でも、それらは、効果に反して、あまり見た目で変化を見る事ができない。
何も知らない者からすれば、地味…と言われてもおかしくはないだろう。
見映えのする力と言えば、村では、土属性を使って、土地を弄る…なんて事もやっていた。
土はつまり地面とかの土に干渉する、村人が、土だけに土を操る…なんて寒い事を言っていたが、その力だけは本物で、硬い土地を畑に適した柔らかい土に変えたり、逆に、家を建てるには柔らかすぎる土地を、最適な硬い地面にする等、地面へと干渉する事を、実証している。
---[07]---
突き詰めていけば、地形操作…なんて事も、夢ではないかもしれない。
4人の属性を調べた事で、俺が一番、目を引いたのは、フォーの影属性だ。
魔力には、「火」「水」「風」「土」「光」「影」「無」と、全部で7つの種類に分けられるが、その中でも「光」と「影」は特殊で、その属性の魔力を持つ人間は数が少ない。
村でも昔は居たらしいが、あくまで昔、話に聞いた程度で、俺の知っている中に、その2種の属性を持つ者は居なかった。
村自体大きい所ではなかったが、大陸全土でもなかなかお目に掛かれないという話だ。
正直、魔法使いとして、興味を引かれないと言えば嘘になる。
その希少性もさることながら、その特性に関してはより目が向く。
---[08]---
火なら熱、風なら切断、土なら硬化、1つの属性には、使い方…やり方次第で多彩な特性を引き出す事が出来る訳だが、こと「光」と「影」に関しては、その内に囚われない。
それは他の属性以上に特性がある…という訳ではなく、極端に少ない事に起因している。
そんな光と影の特性は、光は「消失」、影は「変化」だ。
光と言えば、明かりとか、そういうモノを想像するのだが、あくまでそれは経過でしかないらしく、最終的に魔力を使ったその先には、消失が待っているという。
そもそもその属性を持つ者が少ない上、さらにそこから魔法使いになるかどうか、自身の属性を調べるかどうか…と、ソレを持つ可能性の者はどんどん減り、光の特性を調べる人員がいないに等しい。
---[09]---
それでは調べようにも情報が無さ過ぎて、結果はお察しと言える。
消失という単語は穏やかではないし、総じて光属性を持つ人間は早死にする…なんて話もあって、余計に研究などが進まない原因になっているのだろう。
影もまた光と同じで、情報が少ない。
それでも、光と違って、早死にする…なんて話は無く、情報は光よりも多い。
といっても、その特性は1つ、「変化」…ただそれだけだ。
いや、むしろ1であり全であるとも言える。
影…なんて言い回しをするだけあって、どういう効果をもたらすのかを知ると、どことなく腑に落ちる点もあった。
影、影とは知る人ぞ知る…というか、誰もが当たり前のように目にしている影だ。
---[10]---
足元を見れば、誰にだって存在するものである。
何かで光が遮られた結果、光が弱まって出来るモノが影だ…が、この場合の影は少し違う。
魔力属性の影は、その形が重要である。
影はあらゆる形になれる…、決まった形は無く、あらゆる形を作り出す。
それを魔力で言うと、魔力があらゆる形になる…この場合、ソレは属性だ。
属性は、その魔力の在り方…形でもある。
人なら人の、植物なら植物の、その形にはまって形作られるものが属性だ。
火属性の形に変われば火属性を、水属性の形に変われば水属性を、影は1であり全とはよく言ったもので、影の変化の特性をうまく使えれば、全ての属性を扱えると言ってもいい。
---[11]---
あと影と呼ばれるもう1つの理由は、その変化の特性を使った時、知覚できるようになった魔力の色が、黒く変色するというのもある。
全ての属性の特性が使えるようになる…、それだけ聞けば、万能だと言えるが、全てが万事うまくいく訳でもないらしい。
聞いた話では、変化で再現できるのは、光と無を除いた4種だけで、変化させた属性は、元々の実際の属性よりも、効果が薄いとか。
本来の魔力なら上中下の上の力まで出せるのに対し、変化させて作り出した影の魔力では、三段階の内、中までしか出せない。
単純な力勝負では、影の魔力では、純粋な属性には叶わない…、その結果と言えばいいのか、一部の魔法使いからは、器用貧乏属性…なんて言われ方をしているとか…いないとか。
---[12]---
実際に、そんな事を思っている人間は、村にはいなかったが、そういう考えを持っている人間がいて、そういう話をしているのだ…と、又聞きながら聞いた事はある。
出力として純粋な属性に勝てなくても、それでも光と無を除いた属性の特性を、1つの属性で再現できるのは、運用の幅が広くて、訓練のし甲斐があるというモノだ。
魔法使いとして、属性の知識として、それらを知ってはいるが、結局の所、自分の持つ属性ではない事もあって、深く知る事は出来ない。
影の魔力に対して、興味こそ尽きはしないが、それでも全てはフォー次第だ。
『…カゲノ…カムイノミ…アラカ…タマ…カラ…』
今フォーは、魔法を使用する事による魔力の感覚を覚えてもらうため、村で下手をすれば一番馴染み深い「躾玉」を何個も作らせている。
魔力で作られる手の平程の大きさの球体、相手に投げ、そしてぶつければ、怪我こそしないものの、痛みだけは確実に相手に伝える…、魔法の効果を強めれば、親からげんこつを貰ったかのような痛みが走る事から、躾玉…なんて呼ばれ方をするようになった。
---[13]---
発声魔法で作れるものだが、必要最低限の魔力で作る事が出来る弾は、かなり弱い痛みを与えるだけとなっている。
痛みを増すのは、魔力調節次第…。
村では、魔法発動による魔力の制御を、これで訓練していた時もあった。
他にも訓練に使えそうな魔法はあるだろうが、何より、俺が扱いなれているから、何か変化があった時に気付きやすい。
伊達に、ジョーゼの奇襲に対して、躾玉を使い続けてはいないのだ。
『うぇ~…。隊長先生ッ! 手の平がジンジンッて悲鳴を上げているでありますッ!』
フォーが躾玉を作ったのは、この休憩の間だけで何個目になるだろうか。
アレンの手合わせに付き合ったり、セスの様子を見に行ったり、ずっと見ていた訳じゃないから、正確な数がわからない。
---[14]---
俺が見ていた間だけで言うなら、ざっと20個くらいだったか?
そこから俺が離れたとしても、倍の数になる事はない。
躾玉は、魔力の消費量が少ないのもあって、試行錯誤がいくらでもできる利点がある。
等々状況を見るに、フォーの魔力量…、それと体力面から、その悲鳴は、危険信号とは程遠いものだ。
「普段と違う魔力の使い方をしたせいで、体が驚いているだけだ。まだまだいける。自分の魔力に集中しろ。躾玉を火の玉に変えるんだ」
普通、魔法を作り出した後で、別の形に変えるのは簡単な事ではない。
でも影の属性なら、あるいは…。
わざわざ、変化なんて言い回しをされているのだ…、属性再現とか、模倣とか、そういう言い方ではなく、変化…。
---[15]---
変化させる事に特化しているのなら、完成した後の魔法を変化させる事だって出来るはず、想像次第で、魔法はいくらでも新たな可能性を見せるのだから。
といっても、魔力の制御を出来るようになってきたとはいえ、魔法は初心者だ。
杖魔法は魔力の制御ができなくても、魔力を扱えるだけでモノにできるから、数には含まない。
その扱う…という事自体も大事な事ではあるが…。
「そんなッ!? 隊長先生、このままじゃ、私死んじゃうッ!」
「それだけ大声を出せる内は死にやしない。本当に死ぬ直前てのは、口すら動かなくなる。それか、まともな考えができなくなるもんだ」
自分が大丈夫か大丈夫じゃないか。それすら判断が付かず、自分をすり減らす。
動けないのが、力を使い果たした場合なら、後者は自分から火に飛び込む蛾…みたいなものかな。
---[16]---
「鬼ッ! 悪魔―ッ!?」
お面のせいで表情をうかがい知る事は出来ないが、それでもその声から必死さは伝わってくる。
実際、魔法を本格的に始めたばかりの奴に対して、属性の特性を扱え…なんてのが、まず急ぎ過ぎとも言えるか。
「わかった、わかった。今回はそこまでにしていいぞ」
「ぶへぇ~ら…」
俺の終了の合図と共に、フォーの手に平に作られていた躾玉が弾けて霧散していく。
その場に尻餅をついた彼女は、地面に手を付きながら、肩で息をしていた。
「コレめっちゃ疲れるんじゃがッ! じゃがッ!? じゃがーーッ!? 隊長先生ッ! これは大して疲れん…て、そう言ってたじゃんかいなッ!?」
---[17]---
疲れのせいで、頭が変な事にでもなっているのか、いつも以上にフォーが元気になっているように見えなくもない。
「疲れる…か。疲れるにしても、そんなにやっていないと思うんだが…。それはたぶん、魔力とか、力が入り過ぎているんだろうな」
躾玉を何十個と作った所で、魔力切れになる…なんて事、そうそう起こるとは思えない。
それ程、消費魔力は少ないのだ。
だからこそ、まだまだいけると踏んだ訳だが、疲れているというのなら、それはたぶん、魔力を使い過ぎているのだろう。
魔法を作る時じゃなく、変化させようとする時に、魔力を駄々洩れさせている感じだ。
---[18]---
先走り過ぎたか…。
原因を考えていく中で、いくつか思い当たる事はあった。
影属性なんて、珍しいモノが出てきた事で、少なからず、俺も魔法使いとしての、面倒な面が表に出てきたのかもしれない。
それは失敗だ…と、頭の中で反省をしつつ、ちゃんと弟子達と歩幅を合わせなければ…と思うのだった。
『運命の竜』~魔法使いと騎士~ 野良・犬 @kakudog3
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