終わり

古ぼけた道場に出た。埃を被った剣や盾が乱雑に積まれていた。深緑のブリムが床に捨ててあった。リュウは歩を進める。何かに突き動かされているように、足は止まらない。


 出入口を見つけた、人の気配がする。リュウは世奈を見て、優しく起こした。


「……リュウちゃん」


 世奈の元気がない。どうやら恐怖に支配されてしまったようだ。リュウにもたれかかって、一行は先に進んだ。


 コルがいた。傷だらけのメイドも何人かいる。後は死んでいた。リュウはティアの居所を尋ねた。コルのよどんだ目がリュウを掴んだ。老人のようなしわがれてしまった声から、こんな声がした。


「世界は終わりに近づいている……魔王は暴走し、魔物は暴れてしまった」


「ティアは?」


 リュウはポツンと尋ねた。沼に小石を投げるような無力さをもって。コルはどうでもよさそうに答えた。


「生きているなら、魔王に囚われているだろう。死んでいるならその辺りにいるんじゃないか。何にせよ、もう終わりだ」


 コルは光の泡となった。蛍の光のように悲しく、世界から嫌われた。メイドが答える。


「ここから、ワープしていけます。いきますか?」


 メイド服は用をなしていない。破れてレースははぎ取られ、スカートは三日月に切れていた。リュウは確かめるように世奈と桜美を見た。二人とも、ここにいるようだ。変えなくては、世界を救うために。


 リュウはワープした。異世界に来た頃を思い出す。あの時の同じ、異空間を駆ける心地良さが臓腑を打った。


 魔王はいた。玉座に座って、壊れた天井を眺めていた。昼だったはずなのに、星が瞬いている。ピカピカとあちらこちらで、歌っていた。リュウは尋ねた。


「ティアはどこにいる!」


 声に元気があった。それほど必死という事である。ドン、世界のどこかで街が崩壊した。雷鳴が轟き、竜が跋扈する。デュオスは笑った。渇いた声で世界を祝福するのだ。


「あの小娘なら地下で拘束している。さて、無意味な戦いを楽しもうではないか!」


 リュウと魔王は戦った。三日三晩、朝も夜も昼も真夜中も。死なない勇者と最恐の魔王が世界で踊る、笑う。血の雨が地上にドバドバ降るわれた。


 リュウは勝った。地下のティアを救い、そこで剣が折れた。ティアは泣いていた。喜んでいた。二人は抱き着いた。その時、こんな声がした。


「帰りなさい……貴方の役目は終わったのです」


 神の声であった。そうだ、リュウはこの世界の神になったのだ。それでは、名前を決めよう。『エトラント』。


 リュウは空に浮かんだ。天高く舞って、天使に引き寄せられた。ティアが涙を流したが、誰もいなかった。空には太陽がてかてかと光っている。



 世奈と桜美は地球に帰った。リュウは地球にもエトラントにも見当たらなかった。ティアは今日も探す、荒野の中に身を置いて、愛しき思い出を抱えながら。



 神は見守るであろう。これからもずっと。





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ヤンデレホイホイ系勇者 goukai @gouraigo

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