急行列車
新成 成之
第1話
「降ろしてくれ」
そう叫んだところで降ろしてくれる訳もなく。無理に降りようとしても、無事でいられる訳もなく。俺しかいない車内を、ただ駆け回ることしか出来ない。
他の人が見たら笑うのかな。滑稽だって指を指すのだろうか。
「当然の報いだよ」
そう言われるのかな。何も分からない。分からないんじゃない。分かりたくないんだ。考えたくないんだ。もしそれを考えてしまったら、俺のこれまでが、全て無駄だったと認めてしまうことになる。俺の全てが否定されることになる。こんな状況でそんなの耐えられるわけがない。だから俺は無駄に駆け回っているんだ。
何年前だろうか、俺は夢を追うと急行列車の切符を握り締め、独りで乗車したあの日。あの日から俺の全てが狂い出したんだ。止まることのないその列車は、俺の想像を遥かに超える速度で景色を遠ざけていった。いつからだろう、それが怖くなったのは。いつだっただろう、その列車の終着点が無いのことを知ったのは。間違ってない。何も間違ってはいなかった。乗った列車も、駅も、時間も、それが一番順調にたどり着けるはずのルートだった。だからだろう、そんなものに頼ってしまったが故の今なのだろう。
急行列車 新成 成之 @viyon0613
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます